一顰いっぴん)” の例文
一方は赤裸々の心事を、赤裸々に発表すれども、他方はいやしくも人に許さず、甚だ一笑一顰いっぴんおしみ、礼儀三千威儀いぎの中に、高く標置す。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それが一夜で、黄色い汚水に変ってしまいました。見よ、ヨシ子は、その夜から自分の一顰いっぴん一笑にさえ気を遣うようになりました。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
僕はふいと馬鹿げた事を考えた。昔の名君は一顰いっぴん一笑を惜んだそうだが、こいつ等はもう只で笑わないだけの修行をしているなと思ったのである。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
殊に今度は間に悲哀トリステサという邪魔物が介在してきただけに、私にとっては事態の収拾が以前よりも一層困難を極め、一家の主人でありながら、召使たちの一顰いっぴん一笑にまで気を兼ねて
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
その証拠には、内府の一声には、今度の会津攻めでも、即日に七十余侯の大軍が東下しているのみか、家康の一笑一顰いっぴんをおそれて、先を争ってゆくさまは、むしろ浅ましいものがある。
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天下の民みな覇政はせいたくに沈酔し、一旅を以て天下を争わんとしたる幾多いくたの猛将梟漢きょうかんの子孫が、柳営りゅうえい一顰いっぴん一笑いっしょう殺活さっかつせられつつある際に、彼の烱眼けいがんは、早くも隣国の形勢に注げり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)