一家中いっかちゅう)” の例文
あえて私のみではない。盗難のあったれ以来、崖下の庭、古井戸の附近ふきんは、父を除いて一家中いっかちゅう異懼いく恐怖の中心点になった。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
「寒くなってから火鉢ひばちの掃除する奴があるか。気のきかん者ばかり居る。」と或朝、父の小言が、一家中いっかちゅうに響き渡った。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
気味悪い狐の事は、下女はじめ一家中いっかちゅうの空想から消去きえさって、よるおそく行く人の足音に、消魂しく吠え出す飼犬の声もなく、木枯の風が庭の大樹だいじゅをゆする響に、伝通院でんつういんの鐘の音はかすれて遠く聞える。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)