-
トップ
>
-
おおむこう
幕開の
唄と三味線が聞え引かれた幕が次第に
細かく早める拍子木の
律につれて片寄せられて行く。
大向から早くも役者の名をよぶ掛け声。
この
終局の素晴らしさ——幕切れに
大向を
唸らせるファウスト博士の大見得——この意表を絶した
総懺悔の形容を見給え。
梯子段の二、三段を
一躍びに
駈上って人込みの中に割込むと、
床板の
斜になった低い屋根裏の
大向は大きな船の底へでも下りたような心持。
先刻から三人四人と絶えず上って来る見物人で
大向はかなり
雑沓して来た。前の幕から居残っている
連中には待ちくたびれて手を
鳴すものもある。