“開(あ)” の例文
「貸家ですか。そこはJさんが雇い婆さんに一週間一ポンドずつやって、窓の開(あ)け閉(た)てをさせていたんですがね。もういけませんよ」
「井戸辺(いどばた)に出ていたのを、女中が屋後(うら)に干物に往(い)ったぽっちりの間(ま)に盗(や)られたのだとサ。矢張(やっぱり)木戸が少しばかし開(あ)いていたのだとサ」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
外(そと)で、たこのうなり声(ごえ)がする。窓(まど)を開(あ)けると、あかるく日(ひ)が射(さ)し込(こ)む。絹糸(きぬいと)よりも細(ほそ)いくもの糸(いと)が、へやの中(なか)にかかって光(ひか)っている。
ある少年の正月の日記 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だツて紳士程(しんしほど)金満家(きんまんか)にもせよ、実(じつ)は弁天(べんてん)も男子(だんし)に見立(みたて)たいのさ。と云(い)つて居(ゐ)ると背後(うしろ)の襖(ふすま)を開(あ)けて。浅「僕(ぼく)が弁天(べんてん)です、僕(ぼく)が弁天(べんてん)さ。 ...
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
手を洗って、ガタン、トンと、土間穿(どまばき)の庭下駄を引摺る時、閉めて出た障子が廊下からすッと開(あ)いたので、客はもう一度ハッとした。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから、跳(は)ね上がる。寝台の鉄具(かなぐ)にぶつかる。椅子(いす)にぶつかる。暖炉(だんろ)にぶつかる。そこで彼は、勢いよく焚口(たきぐち)の仕切り戸を開(あ)ける。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
暗い待合室に這入ったが、まだ時間が早いし、切符売場の窓が開(あ)いていないので、ちょっと舌打をしたまま悠々と出て行こうとした。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
のこのこと床から這(は)い出した歌麿は、手近の袋戸棚を開(あ)けると、そこから、寛政(かんせい)六年に出版した「北国五色墨(ほっこくごしきずみ)」の一枚を抜き出した。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
彼の顔には愛嬌のいいところがなくなったし、開(あ)けっ放しの様子も少しもなくなり、寡言な、怒りっぽい、危険な人間になっていた。
彼の上着には腰のあたりに釦(ボタン)が二つ並んでいて、胸は開(あ)いたままであった。霜降の羅紗(ラシャ)も硬くごわごわして、極めて手触(てざわり)が粗(あら)かった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
開(あ)かないから悪いのよ。ほんとなら警察へ突き出されたってそれまででしょう。それを地道に訊(き)こうというのに、シラを切るんだもの
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仕方が無いから、今に又機会(おり)も有ろうと、雪江さんの話は浮の空に聞いて、只管(ひたすら)其機会(おり)を待っていると、忽ちガラッと障子が開(あ)いて
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
階段を降(お)り、階下の校舍の一部を横切り、それから二つの扉(ドア)を音を立てないやうに巧(うま)く開(あ)けて、また閉(し)めて、別の階段の所まで來た。
十二時にならないと店を開(あ)けない贅沢(ぜいたく)な料理屋も其処此処(そこここ)にある。芝居帰りの正装で上中流の男女(なんによ)が夜食を食べに来るのだ相(さう)である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
トムちやんが茅葺屋根の潜戸(くぐり)を開(あ)けると、遥に唱歌隊がこちらに近づいて来るのが見られました。向ふでもトムちやんを見つけました。
女王 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「俺(おら)んとこは無人で敢り次ぎが居んさかい、この圓窓が取り次ぎや。……この窓開(あ)けて喚(わめ)いて呉れ、家(うち)にゐたら俺が出て來るぞ。」
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
口の開(あ)けてある瓶は、注(つ)いでしまふ度に栓(せん)をして、倒(さかさ)に閾に寄せ掛けて置くのである。八は妙な事をするものだと思つて見てゐる。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
女の強い声とともにどうしたのか洋服の男は、土間の上に仰向(あおむ)けに倒れてしまった。と、ガラス戸が開(あ)いて女の姿は外へ出てしまった。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
戸は細目に開(あ)いた。音もなく大きく開く。岩はスルリと三吉のいる室内に滑りこんだ。その手にはコルトの六連発のピストルを握って。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
表門の潜戸(くゞりど)ばかりを開(あ)けた家中は空屋敷(あきやしき)のやうに寂(しん)として居る。自分は日頃から腹案して居る歌劇(オペラ)脚本の第一頁に筆を下して見た。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
「はははは……」その教授は口を開(あ)けて笑ひ出した。「君は知らないのかい、榊原政職つていふ男は、考古学教室の助手ぢやないか。」
「なかなか開(あ)きそうにもなく戸じまりがされていますし、女房もたくさんおります。そんな所へ、もったいないことだと思います」
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
格子が開(あ)いて、玄関に、膝をついて出迎える女中たち。揃って、小豆(あずき)っぽい唐桟柄(とうざんがら)に、襟をかけ、黒繻子(くろじゅす)の、粋な昼夜帯の、中年増だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
芙蓉の死骸に頭から蒲団(ふとん)をかぶせて置いて、ソッと階段を降り、入口の所で暫く耳をすましていたが、思い切って厚い扉を開(あ)けた。
虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
リスは、戸が開(あ)かないことがわかりますと、車から出てきました。それから、ふたりは長いあいだヒソヒソと相談をしていました。
此時(このとき)家(いへ)の戸(と)が開(あ)いて、大(おほ)きな皿(さら)が歩兵(ほへい)の頭(あたま)の上(うへ)を眞直(まつすぐ)に、それから鼻(はな)の尖(さき)を掠(かす)つて、背後(うしろ)にあつた一本(ぽん)の木(き)に當(あた)つて粉々(こな/″\)に破(こわ)れました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
この屋敷には有り過ぎるほど室が幾間もあるので、七兵衛の座敷として、ほとんど開(あ)かずの間(ま)のようになっているところもあるのです。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あたりを活気づけるようなものは何ひとつ見あたらず——扉が開(あ)け閉(た)てされるでもなければ、何処からひとり出て来る人影もなく
船頭(せんどう)は闇(くら)い小屋(こや)の戸(と)をがらつと開(あ)けて又(また)がらつと閉(と)ぢた。おつぎは暫(しばら)く待(ま)つて居(ゐ)てそれからそく/\と船(ふね)を繋(つな)いだあたりへ下(お)りた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
未だ數彈ならざるに、對(むか)ひの家の扉は響なくして開(あ)き、男の姿は戸に隱れぬ。想ふに此人を待つものは、優しき接吻と囘抱となるべし。
それから、また暫(しばら)くの後、或る日私が仕事場で仕事をしていると、一人の百姓のような風体(ふうてい)をした老人が格子戸(こうしど)を開(あ)けて訪(たず)ねて来ました。
ふろしき包みを持ったほうの手で格子戸を開けようとするがうまく開(あ)からない。主人はそれを見て土間に片足を落として格子戸を開けた。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
彼は牢屋(ろうや)の後にある、大きな岩の中を、人に分らないように、そっと下から掘り開(あ)けて、その中へ秘密の部屋をこしらえました。
デイモンとピシアス (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
幸(さいわい)怪我(けが)もなかったので早速(さっそく)投出(なげだ)された下駄(げた)を履いて、師匠の家(うち)の前に来ると、雨戸が少しばかり開(あ)いていて、店ではまだ燈(あかり)が点(つ)いている。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
犍陀多はこれを見ると、驚いたのと恐しいのとで、しばらくはただ、莫迦(ばか)のように大きな口を開(あ)いたまま、眼ばかり動かして居りました。
蜘蛛の糸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「だいぶ前から金具が錆(さ)びていて、開(あ)け閉(た)てに歯の浮くような音を立てましたが、二三日こっち不思議にそんな音が聞えなくなりました」
ただ三個の開(あ)き口だけを持ってる民家が百三十二万戸、一つの戸口と一つの窓との二つの開き口だけを持ってる民家が百八十一万七千戸
それが跡形もなくなって、言語道断な不潔な場所に改変されている……ドアが開(あ)いているから、君のところからも見えるだろう。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この属名の Platycodon はギリシア語の広い鐘(かね)の意で、それはその広く口を開(あ)けた形の花冠(かかん)に基(もと)づいて名づけたものである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
達二のうちは、いつか野原のまん中に建(た)っています。急(いそ)いで籠(かご)を開(あ)けて、小鳥を、そっとつかみました。そして引っ返(かえ)そうとしましたら
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
やゝありて『誰かある』と呼ぶ聲す、那方(あなた)なる廊下の妻戸(つまど)を開(あ)けて徐ろに出で來りたる立烏帽子に布衣着たる侍は齋藤瀧口なり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
いさぎよく起きて本でも讀まうと、廊下のつきあたりのはゞかりへ行くと、その戸に手をかけた時、中から開(あ)けて人が出て來た。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
積った雪は烈(はげ)しい光を含んで、ぎらぎら輝きましたから、目も羞明(まぶ)しく痛い位、はっきり開(あ)いて見ることも出来ませんのでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お島は後向になったまま、何をするかと神経を研(とぎ)すましていたが、今まで懈(だる)くて為方のなかった目までが、ぽっかり開(あ)いて来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小山「オヤオヤよく中の物がシューっと縮まりませんね。私どもでは出来上るまで一切(いっさい)戸を開(あ)けないと極(き)めておきます」お登和嬢
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
クリストフは面くらって、詫(わ)びを言い、出かけようとした。その時廊下の奥の扉(とびら)が開(あ)いた。見ると、コーンが一人の婦人を送り出していた。
と言出した時、入口の障子がガラリと開(あ)いて、浅黄がゝつた縞の古袷に、羽織も着ず、足袋も穿かぬ小造りの男が、セカ/\と入つて来た。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お宮は眠った眼を眩しそうに細く可愛く開(あ)いて見て、口の中(うち)で何かむにゃ/\言いながら、一旦上に向けた顔を、またくるりと枕に伏せた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
と申(もう)して、この話(はなし)を省(はぶ)いて了(しま)えば私(わたくし)の幽界生活(ゆうかいせいかつ)の記録(きろく)に大(おお)きな孔(あな)が開(あ)くことになって筋道(すじみち)が立(た)たなくなるおそれがございます。
ときどき眼エ開(あ)いたりしやはりますのんで、ほんまは本宅の方いお知らせせないきまへんねんけど、そしたらとうちゃん叱(しか)られはりますし
卍 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)