距離きょり)” の例文
その明かりはほんのわずかの距離きょりにあったが、かれにはなにも見えなかった。わたしはかれの視力しりょくがだめになったことを知った。
名の無い形と色と匂と動作とが、距離きょりや時間の観念の奇妙に倒錯とうさくした異常な静けさの中で、彼の前にたちまち現れ、たちまち消えて行く。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
失望湾は左門洞から約二十キロメートルの距離きょりにある、これは万一のばあい、左門洞の一同と消息しょうそくを通ずるにしごく容易よういである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
が実際死人が、自分と数けんの、距離きょり内にあると云う事は、全く別な感情であった。その上啓吉は、かなり物見高い男である。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それは、ほんのわずかばかりの距離きょりではありましたけれど、このちいさな動物どうぶつにとっては、容易よういのことではなかったのです。
ねずみとバケツの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
幸い任地から一日で往復できる距離きょりでもあったので、ある日曜——それは一か月ばかりまえのことだったが——わざわざ朝倉先生をたずねて来て
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
クルリとふり向くと、さきの者とは、だいぶ距離きょりができたのにびっくりして、足軽あしがるの男は、急にいそぎ足にわかれかけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
譜本ふほんうたうたふやうに、距離きょり釣合つりあひちがへず、ひいふういて、みッつと途端とたん敵手あひて胸元むなもと貫通ずぶり絹鈕きぬぼたんをも芋刺いもざしにしようといふ決鬪師けっとうしぢゃ。
ただだまって一本松の方を見ているのは、そこまでの距離きょりが、自分たちの計算では見当けんとうがつかなかったからだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
なんもうしましても、人間にんげん妖精ようせいとでは、距離きょり大分だいぶかけはなれていて、談話はなしがしっくりとちないところもございますが、それでも、こうしているうち
はとふくろうも出なかったが、すずめはたくさんいた。見あたり次第にポンポンやったけれど、距離きょりが遠いからちっともあたらない。なお林の中をうろつきまわっている間に、照彦様は
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
出遅でおくれや落馬へきの有無、騎手の上手じょうず下手へた距離きょりの適不適まで勘定かんじょうに入れて、これならば絶対確実だと出馬表に赤鉛筆えんぴつで印をつけて来たものも、場内を乱れ飛ぶニュースを耳にすると
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
犬の子にでもいかけられるような場合には、あわてる割にはかのゆかない体の動作をして、だが、げ出すとなると必要以上の安全な距離きょりまでも逃げて行って、そこで落付いてから
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
春松検校の家はうつぼにあって道修町の鵙屋の店からは十丁ほどの距離きょりであったが春琴は毎日丁稚でっちに手をかれて稽古に通ったその丁稚というのが当時佐助と云った少年で後の温井検校であり
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
植物に対してだってそれをあわれみいたましく思うことは勿論です。印度インドの聖者たちは実際ゆえなく草をり花をふむこともいましめました。しかしながらこれは牛を殺すのと大へんな距離きょりがある。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
まるで大きなブナの木々が、うしろへんでいくようです。ニールスとズルスケの距離きょりはだんだんちぢまってきました。と、ついに追いつきました。ニールスはズルスケのしっぽにとびつきました。
おれの足音を聞きつけて、十間ぐらいの距離きょりに逼った時、男がたちまち振り向いた。月はうしろからさしている。その時おれは男の様子を見て、はてなと思った。男と女はまた元の通りにあるき出した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
糟谷かすやは自分で自分をあなどって、時重博士ときしげはくしの門をかえりみた。なに時重さんくらいと思ったときもあったに、いまは時重と自分とのあいだに、よほどな距離きょりがあることを思わないわけにいかなかった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
九ちょうの猟銃りょうじゅうは一度に鳴った。距離きょりは近し、まとは大きい、一つとしてむだのたまはなかった。ぼッぼッぼッと白い煙がたって風に流れた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
しかし、いた乳母車うばぐるまつくえとが、いちばんたがいに距離きょりちかかったものだから、はなしもし、またしたしくもしていました。
春さきの古物店 (新字新仮名) / 小川未明(著)
どこまですッ飛んでしまったか、その距離きょり方角ほうがくにいたっては燕作えんさくにもちょっと想像そうぞうがつかないのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悲観するというのは、そんなえらい人たちと、ぼくとの間に距離きょりがありすぎるからばかりではありません。そういう事とは別に、ぼくにはぼくの考えがあるからなんです。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ある暗い路地口ろじぐちに立って、なにしろわずかの距離きょりしか見えなかったから、そっと口ぶえをふいた。
洞窟どうくつっても、それはよくよくあさいものであかるさはほとんど戸外そとかわりなく、そして其所そこからうみまでの距離きょりがたった五六けん、あたりにはきれいなすなきつめられていて
その時、四十而不惑しじゅうにしてまどわずといった・その四十さいに孔子はまだ達していなかった。子路よりわずか九歳の年長に過ぎないのだが、子路はその年齢ねんれいの差をほとんど無限の距離きょりに感じていた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
Oという県庁所在地の市は夕飯後の適宜てきぎな散歩距離きょりだった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
輪投げというのは平地の上に二本の棒を立て、一定の距離きょりをとってこの棒にはまるように木製の輪を投げるのである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
みんなは、きみ姿すがたようとするけれど、あまりに、地上ちじょうから距離きょりがはなれています。きみらえようとおもうものまで、あきらめてしまうものがおおい。
平原の木と鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その城とは、三里じゃく距離きょりをおいて、水屋みずやはらにかりの野陣をしいているのは、すなわち秀吉方ひでよしがた軍勢ぐんぜいで、紅紫白黄こうしびゃくおうの旗さしもの、まんまんとして春風しゅんぷうに吹きなびいていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここになるとずっとわれわれとの距離きょりちかいとでももうしましょうか、御祈願ごきがんをこむれば直接ちょくせつ神様かみさまからお指図さしずけることもでき、またそう骨折ほねおらずにお神姿すがたおがむこともできます——。
ウェストエンドからベスナル・グリーンまでの距離きょりはかなり遠いのである。わたしはまたカピを見てどんなにうれしく思ったろう。かれはどろまみれになっていたが、上きげんであった。
しかも、朝倉先生との間には、まだ畳二枚ほどの距離きょりがあった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
わずか一時間じかんらずで、汽車きしゃ目的地もくてきちきました。N町エヌまちまでは、そんなちか距離きょりでしかありませんでした。
しいたげられた天才 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうなり声は小屋の後ろから、しかもごく近い距離きょりから聞こえて来た。
すぐまえちていたとおもった宝石ほうせきのくびかざりは、いくらいっても距離きょりがありました。
宝石商 (新字新仮名) / 小川未明(著)