うた)” の例文
『あんな名僧めいそう知識ちしきうたわれたかたがまだこんな薄暗うすぐら境涯ところるのかしら……。』時々ときどき意外いがいかんずるような場合ばあいもあるのでございます。
しかし、このひと、欧米の料理界において著名をうたわれたのは、料理の腕もさることながら、人間が相当に出来ていたに違いない。
僧侶の身分で女と心中したとうたわれては、自分の死後の恥ばかりでなく、ひいては師の坊にも迷惑をかけ、寺の名前にも疵が付く。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自我の利欲に目のくらむ必要がある。少くとも古来より聖賢の教えた道をないがしろにする必要がある。生活難をうたえる人よ。私は諸君がうらやましい。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
後世までも十二神オチフルイ貝十郎は、宝暦から明和安永へかけての名与力としてうたわれて、曲淵甲斐守や依田和泉守や牧野大隅守というような
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ある者は湖面に花を咲かせていたし、ある者は根となって人眼に触れぬ水底に隠れていた。魚は平和をたのしみ、鳥は波上に歓びをうたった。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
寒い広場に、子守が四、五人集まって、哀れな調子のうたうたっているのを聞くと、自分が田舎で貧しく育った昔のことが想い出される。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何しろ彼は、人をかつぐ名人として通っていたし、仮装舞踏会かそうぶとうかいなどで、まんまといっぱいくわせる妙技みょうぎうたわれていたからである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
橘之助と艶名をうたわれた三遊亭圓馬(その頃のむらく)が私の師父にあたっているし、さらに私と多年の交わりがあり、それゆえに昨春
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「オッサン、ゲイ・キャバレロをうたっとくれよ!」なんと中学生が、一座の喧騒裡けんそうりにわめいても、よくその意味が通ずるとみえ
人造物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうしてその征御せいぎょに文化の誇りをうたおうとする。だが自然に叛くものに悠久なものがあろうか。自然に従順なものは自然の加護を受ける。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
世間には「私のところのモーターは十インチ何枚十二インチ何面かかります」とうたっている製造者もあるが、これは意味なきことである。
その男は、墺太利オーストリヤ海軍の守護神、マリア・テレジヤ騎士団の精華とうたわれたのですが、また海そのものでもあったのですわ。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
お梶は、もう四十に近かったが、宮川町の歌妓うたいめとして、若い頃に嬌名きょうめいうたわれた面影が、そっくりと白い細面の顔に、ありありと残っている。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
逆賊となっても赫々かくかくの光を失わず、勝は、一代の怜悧者りこうものとして、その晩年は独特の自家宣伝(?)で人気を博していたが、小栗はうたわれない。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「なる程、そなたの申し分には、道理がある。そこまで、身をつつしんでこそ、日本一の芸人と、名をうたわれることも出来よう」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「理由なく彼を殺せば、一世の非難をうけましょう。呉は信義のない国であるとうたわれては、呉のために、どうでしょうか」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この材と質とをもってせば天下に嬌名きょうめいうたわれんこと期して待つべきに、良家の子女に生れたるは幸とや云わん不幸とや云わんとつぶやきしとかや。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
後の世までその名をうたはるゝほど、みめかたち麗しく生れついた人達が、さうめつたに笑はなかつたといふことは面白い。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
えび舞踏ぶたうのモひとつの歩調ほてうをやつてやうか?』とグリフォンはつゞけて、『それとも海龜うみがめにもひとうたうたつてもらはうか?』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
あゝいやだ/\と道端みちばた立木たちき夢中むちうよりかゝつて暫時しばらくそこにたちどまれば、わたるにやこわわたらねばと自分じぶんうたひしこゑそのまゝ何處どこともなくひゞいてるに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
闘技のらちに馬乗り入れてランスロットよ、後れたるランスロットよ、とうたわるるだけならばそれまでの浮名である。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、金の鎖をつるに持ったフロリダ黄蘭のように宙乗りをして、そこから静かに得意の夢をうたいつづけていた。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
さしも京洛きょうらく第一の輪奐りんかんの美をうたわれました万年山相国の巨刹きょさつことごとく焼け落ち、残るは七重の塔が一基さびしく焼野原にそびえ立っているのみでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
いつわりならぬ真実!」と、東洋の詩人がうたったそのことが、彼には賞牌しょうはいの浮彫でも見るように、手探りの敏感さで、自分の皮膚へ感じられたように思えた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
景山かげやまは今何処いずくにいるぞ、一時を驚動せし彼女の所在こそ聞かまほしけれなど、新聞紙上にさえうたわるるに至りぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
叙事詩の中の抒情部分は、其威力の信仰から、其成立事情の似た事件に対して呪力を発揮するものとして、地の文から分離してうたはれる様になつて行つた。
それに私の名が、ずっと社会的に現われて参って時々新聞などに私の作品の評判なども紹介される処から、地方にも名がうたわれるようになって来ていました。
あれは正木の子ではない訥弁とつしょうという役者の子だといううわさが高く一時は口の悪い新聞にまでもうたわれたほどであったが、正木は二つ返事でその子を引き取った。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
その恩滴したゝりは野の牧場まきをうるほし、小山はみなよろこびにかこまる。牧場はみなひつじの群を、もろ/\の谷は穀物たなつものにおほはれたり。彼等はみなよろこびてよばはりまたうた
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ここはその磯節にまでも歌詞滑らかに豪勢さをうたわれた、関東百三十八大名の旗頭はたがしら、奥羽五十四郡をわが庭に、今ぞ栄華威勢を世に誇る仙台伊達だての青葉城下です。
鋭く、くぼんだ眼を上げた歌麿は、その大丸髷が、まがう方なく、かつては江戸随一の美女とうたわれた灘波なにわ屋のおきただと知ると、さすがに寂しい微笑を頬に浮べた。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
駅前で買った絵ハガキ集の表紙にうたわれているが、そのアカシヤも、ポプラも、旧一中の堤に葉裏を白くひるがえしていた銀ドロも、アメリカから輸入したものだ。
その夢はいつか知らず濃紅姫が睡っている時に、どこか遠い遠い処で歌をうたう声が聞こえて来ました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
鼠色の男だなどとうたわれた義賊らしくもなく、から意気地のない、へなへなした苦力クーリーのような男でした。多分狼狽した結果、金で買ってきた偽犯人なのでしょうねえ。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
私は本多ほんだ子爵が、今でこそ交際嫌いで通っているが、その頃は洋行帰りの才子さいしとして、官界のみならず民間にも、しばしば声名をうたわれたと云う噂のはしも聞いていた。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何しろ彼女は詩人としてもランボウの詩を幾つかもじってみた位のところであるが、それを玄竜が二三流の雑誌に担ぎ上げて彼女の美貌と共にその前途をうたったのだ。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
彼はすべての預言者的人物の如く生涯真知己を得ることなく、傲逸不遜磊落らいらく奇偉の一人物として、幾百年の後までも人にうたはれながら、一の批評家ありて其至真を看破し
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
後の世までも名をうたはれるといふのは、特別に運命に恵まれた男といつて差支へないはずである。
小壺狩 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
実際ヴォルテーアのうたったように、神の声と共に渾沌こんとんは消え、やみの中に隠れた自然の奥底はその帷帳とばりを開かれて、玲瓏れいろうたる天界が目前に現われたようなものであったろう。
科学者と芸術家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
入道の名にうたわれ、かつは、硯友社の彦左衛門、と自から任じ、人も許して、夜討朝駆に寸分の油断のない、血気ざかりの早具足なのが、昼寝時の不意討に、蠅叩はえたたきもとりあえず
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一学の人気は江戸の屋敷の中でも大へんなもので、彼はその頃、二刀流の剣士として盛名をうたわれていた浦周之助の町道場にかよい、元禄九年には早くも免許皆伝をうけた。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
頃日このごろ拿破里ナポリに往きて、客に題をたまはりて、即座に歌作りてうたはんと志したり。斯く語るついでに、われはこたび身を以て逃れたる事のもとさへ、包みかくさずして告げぬ。
四郎は小さいとき長崎の支那の小間物を商う店に丁稚でっち奉公して神童とうたわれたという説もあるし、父とともに支那の小間物をかついで江戸大阪へ行商していたという説もある。
安吾史譚:01 天草四郎 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一昨年おととしかに考査試験に通っていまでは強力犯係の警部として敏腕をうたわれている男である。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
この事件が人々の頭に残る限り、永遠にお前の名はこの俺の名と共にうたわれるであろう。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
艶姿当代無双とうたわれた名花であるだけに、事件は早くも一般の猟奇心を呼んで、今暁以来同家正門前には物見高い見物の群集引きも切らず、すくなからず社会各層を驚かせている。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼らにとって棟上げと餅撒きは同義語なのだ、当事者もまた高らかにそれをうたって置きたい。ゆたかでもない出納勘定のうちから多少の無理を承知のうえできあげた餅であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ハークマのブッシュかブッシュのハークマかとうたわれていたくらい、つまりこの怪談の場所は此処ここになるのだが、その倫敦ロンドンから帰ってきた時は、あだかもその妻は死にひんしていた時で
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
しかのみならず先に言う如く士は今日階級としてはない、昔の如く「花は桜木、人は武士」とうたった時代は過ぎ去って、武士を理想あるいは標準とする道徳もこれまた時世後じせいおくれであろう。
平民道 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)