かえる)” の例文
のちにはわたしたちは彼女の身体へ蛇やかえるのような気味の悪いものを書いたり、またはおかめの面などを書いて悪ふざけをしました。
メデューサの首 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
現代の多くの人間に都会と田舎いなかとどちらが好きかという問いを出すのは、かえるに水と陸とどっちがいいかと聞くようなものかもしれない。
田園雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
敵の通せんぼうをかい潜りかい潜り、立泳ぎ、かえる泳ぎ、抜き手、片抜手、美しき筋肉運動の限りを尽して、美少年のお尻へと追いすがる。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
御寝所ごしんじょの下のへびかえるのふしぎも、あれら親子おやこ御所ごしょ役人やくにんのだれかとしめしわせて、わざわざれていたものかもれません。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
すべて自分のような男は皆な同じ行き方をするので、運命といえば運命。かえる何時いつまでも蛙であると同じ意味の運命。別に不思議はない。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
彼の云うところによると、清水谷から弁慶橋へ通じる泥溝どぶのような細い流の中に、春先になると無数のかえるが生れるのだそうである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二ひきのかえるは、もうすぐ冬のやってくることをおもいだしました。かえるたちは土の中にもぐって寒い冬をこさねばならないのです。
二ひきの蛙 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
わが身は蝙蝠こうもり、ああ、いやらしき毛の生えた鳥、歯のある、生きたかえるを食うという、このごろこれら魔性ましょう怪性けしょうのものを憎むことしきり。
喝采 (新字新仮名) / 太宰治(著)
月は野の向こうにのぼって、まるくかがやいていた。銀色ぎんいろもやが、地面じめんとすれすれに、またかがみのような水面すいめんただよっていた。かえるが語りあっていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
何でも神話によると、始はかえるばかり住んでいた国だそうですが、パラス・アテネがそれを皆、人間にしてやったのだそうです。
Mensura Zoili (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
モズがかえるやイナゴを捕えて食い、あまったものをとがった樹の枝などに刺してはりつけとしておくことは、あまねく人の知っているところであるが
動物の私有財産 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
かえる挨拶あいさつの「さよならね」ももう鼻についてきて参りました。もう少しです。我慢して下さい。ほんのもう少しですから。
蛙のゴム靴 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
彼がこの考えを起こした後は、固有の偉大なる身躯からだがあるいはかえるとなり、あるいは鳥となり、あるいはへびとなり、種々なる形に変化している。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
どの品にも一風流あって面白いが、わけてこのかえるの絵を描いた松風の歌の茶道具一揃いが俗を離れて飄逸ひょういつじゃ。これを貰って行くことにしよう。
ある日の蓮月尼 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
天気つづきで田にはよく稲が育って、あちこちでかえるがころころ鳴いて、前に長く住んだ向島小梅村の家を思い出しました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
すると、かえる啼声なきごえが今あたり一めんにきこえて来る。ひっそりとした夜陰のなかを逃げのびてゆく人影はやはり絶えない。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
と直ちに、相伴あいともなって、石井山の中腹まで上ってゆき、途中からすこし曲って、俗にかえるはなとよぶ所の一軒家まで導いた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがてのことに女は、肌膚はだに着けた絎紐くけひもをほどくと、燃えるような真紅の扱帯しごきが袋に縫ってあって、へびかえるんだように真ん中がふくれている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かえるが啼いている。炭がないので、近所の炭屋で一山二十銭の炭を買って来て飯を焚く。隣りの駄菓子屋の二階の学生が大正琴たいしょうごとをかきならしている。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
だがたいていの場合、私はかえるどもの群がってる沼沢地方や、極地に近く、ペンギン鳥のいる沿海地方などを彷徊ほうかいした。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
わしはとを追い、おおかみは羊をつかみ、へびかえるをくわえている。だがあの列の先頭に甲冑かっちゅうをかぶり弓矢を負うて、馬にのって進んでいるのは人間のようだ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
クルリと尻をまくると、両方の尻にかえるとなめくじを彫って犢鼻褌ふんどしつの上に、小さく蛇がとぐろを巻いております。
細君は夜になってから初めて驚き、台所の板のかえるの如くしゃがんで、今しも狼狽あわててランプへ油をついでいる最中さいちゅう
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
木の葉をかえるにもするという、……君もここへ来たばかりで、ものかたりの中の人になったろう……僕はもう一層、その上を、物語、そのものになったんだ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかして、自身これを捕らえて見たら、かえるの卵に類似した粘着性の物質で、多分これは燐素であろうと述べている。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「一匹のかえるが、古池に飛び込んだ」と訳しただけでは、俳句のもつ枯淡こたんなさび、風雅のこころ、もののあわれ、といったような、東洋的な「深さ」は
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
林の中の一群は、大日武者之助を先頭に、しずしずとして此方こなたへ近寄って来る。静かではあるが執拗にかえるうかがへびのように、きわめて悠々と迫って来る。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その駄洒落だじゃれは、水たまりに石を投げ込んだようなものだった。モンカルム侯爵といえば当時名高い王党の一人だったのである。かえるどもは皆声をしずめた。
四下あたりには若葉が日に日にしげって、遠い田圃たんぼからは、かまびすしいかえるの声が、物悲しく聞えた。春の支度でやって来た二人には、ここの陽気はもう大分暑かった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
伊予の大洲おおずのあたりでは、百舌は友人の時鳥に昔から借りがあって、それを返弁するために時々はかえるなどを捕って、枯枝のさきに突刺つきさして置く約束をした。
相手が恐ろしい爆弾を持っているので、蛇に魅入みいられたかえるみたような心理状態に陥っていたものかも知れない。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いて来た大きな犬のデカと小さなピンが、かえるを追ったり、何かフッ/\いだりして、面白そうに花の海をみ分けて、淡紅ときの中になかくぼい緑のすじをつける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と、博士がかえるのようにとびついてゆくのをワーニャが横合よこあいからとんできて、博士の身体をつきとばした。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なるほどぶはずです、そのきものというのはかえるで、みちばたの草原くさはらまで行こうと思っているのです。その草原はかえるさんのお国です。蛙さんには大切たいせつなお国です。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
かえるのように、眼玉めだまばかりきょろつかせて暖簾のれんのかげからかおをだしたまつろうは、それでもまだおびえていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
これは同じくイタリヤのガルヴァーニという解剖学者がかえるの脚に電気のおこるのを見つけ出したことから、ヴォルタが考えついたのでしたが、電池がつくられると
マイケル・ファラデイ (新字新仮名) / 石原純(著)
それが取り払われて原となってぼうぼうと雑草がえ、地面はでこぼこして、東京の真ん中にこんな大きな野原があるかと思う位、蛇やかえるやなどの巣で、人通りもまれ
ちょうど悪戯いたずら好きな人間が池に石を投げて、その人間はその結果を知らないだろうが、その石に当った池のかえるはそれで死なねばならぬ、そんなような悪戯をすることに
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
「博物もの」の中には「かえるの話」とか「の一生」とか「春の呼声よびごえ」とかいう風なものがある。
科学映画の一考察 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
竹蜻蛉たけとんぼ、紙鉄砲、笛など、ごく単純な玩具を自分で作ったのや、季節と場所によっては小鮒こぶなかにかえるなどという生き物を捕って、もっぱら小さな子供相手に売るのである。
雨あがる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ピーシチク (ラネーフスカヤ夫人に)パリはいかがでした? ええ? かえるをあがりましたか?
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
打ち見たところ、首をかしげて、何考えるかかんかえるの寒そうな、ちょっぴり温めてくれようか
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
自分の鼻が踏みつけられたバナナ畑のかえるのように潰れていないことも甚だ恥ずかしいことは確かだが、しかし、全然鼻のなくなった腐れ病の男も隣の島には二人もいるのだ。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
とにかくわれわれは現にノアの洪水以前の原始人ではないではないか。男女関係一つとってみても、もはや犬やかえるのような単なる獣性の作用ではなくなっているではないか。
どこからともなしに飄然ひょうぜんとやって来ては、石をかえるにしたり、壁へ女の姿を現わしたりして見せて、そのあと饗応ごちそうって帰って往ったのですが、それから一箇月ばかりすると
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
爾は亥猪いのこを好むか。奴国の亥猪は不弥の鹿よりあぶらを持つであろう。不弥の女よ。我を見よ。我は王妃を持たぬ。爾は我の王妃になれ。我は爾の好むかえるこいとを与えるであろう。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
夜、ロスアンゼルスからの帰りに、自動車をめさせ、みんな一斉いっせいに降りたって、小便をしたとき、故国日本をおもいだすような、かえるの鳴声をきいたことも、ほのかにおぼえています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
おもてはすっかり日が暮れてしまって電燈のともらない夜が一層暗くひろがってい、遠くの方で物静かなかえるの鳴き声さえ聞えていたが、庭の葉越しにぱっと明りがさして来たので
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ヨボヨボの老僧の首も、眉の太い頬っぺたの厚い、かえるがしがみついているような鼻の形の顔もありました。耳のとがった馬のような坊主の首も、ひどく神妙な首の坊主もあります。
桜の森の満開の下 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
夕方になって、「かえるが鳴いたからかえろ。」と我がちにいいながら、おなかをすかしてうちに帰ったが、自分はすぐに母のところへ飛んで行って、父の月給がいくらであるかきいた。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)