)” の例文
父は家人の騒ぐのを制して、はかま穿きそれから羽織をた。それから弓張ゆみはりともし、仏壇のまへに据わつて電報をひらいたさうである。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ポーチへ、青い竪襟たてえりのついた灰色の上衣をた従僕が出て来て、チチコフを玄関へ招じ入れたが、既にそこには主人が出迎えていた。
だが、うしても絶念あきらめられなかつたと見えて、羽織の紋所には、捨てられた女五人の名前を書き込んで平気でそれをてゐた。
その翌日、老女は、途方に暮れながらも、どうかして彼女に着物をせようとした。けれども、狂女は身をもがいて泣きわめくばかりだった。
狂女 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
考えてみると似非物にせもの真物ほんもののザックバランに優ることはない。そこでいっそのこと、辮子を廃し、洋服をて、大手を振って往来を歩いた。
頭髪の故事 (新字新仮名) / 魯迅(著)
それは冬の微曇うすぐもりのした日のことであった。S大尉が格納庫の中で機体の手入れをしていると、飛行服をたS中尉が顔色をかえて飛んで来て
空中に消えた兵曹 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
当時もとどりを麻糸でい、地織木綿じおりもめんの衣服をた弘前の人々の中へ、江戸そだちの五百らがまじったのだから、物珍らしく思われたのもあやしむに足りない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
まづ安心したことには、あまり気早過ぎはしなかつたかと内心気にしてゐたのであつたが、車内の人の半分近くも袷せをてゐたことであつた。
散歩 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
お絹はものを著かえる前に、棚から弁当を取りだして、昨夜から註文をしておいた、少しばかりの御馳走やおすしを、お箸で詰めかえていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
たちまち一人皮袴かわばかま乗馬し従者一人添い来って卜を請う、西に去って食をもとめんか東に求めんかと問うたんで、宗し東に向えと告げた。
庄三郎は織色おりいろの羽織をまして、二子ふたこの茶のくろっぽいしま布子ぬのこに縞の前掛に、帯は八王子博多を締めて、商人然としている。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おのれきものぬぎかへてしずるつづりおりに似たる衣をきかへたり、この時扇一握いちあく半井保なからいたもつにたまひて曙覧にたびてよと仰せたり、おのれいへらく
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
……其時、手で、今してる様にさわって見たら、驚いたことに、おれのからだは、こんだ著物の下で、ほじしのように、ぺしゃんこになって居た——。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
私の父は当時のハイカラであったらしく、いつか洋服を一著いっちゃく作ってくれたことがあったが、そんなものをて外を歩くことなどはとても出来なかった。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
彼等かれらみな、この曇天どんてんしすくめられたかとおもほどそろつてせいひくかつた。さうしてまたこのまちはづれの陰慘いんさんたる風物ふうぶつおなじやうないろ著物きものてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
春になって花見に行ったとか、もしくは芝居を見に行ったとか、そうでなくっても何処かの人の集りに出て行ったので、余所行よそゆきの晴衣をて行った。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あのすっぺりとしたやや尖った頭に、何枚かの衣をぬくぬくとて出る姿は、お杉がいなくともなお法師であった。
その内に三十七、八年戦役になって、兄は出征されましたので、あの袖無しをてお祝の席に出ると楽しみにされたのもいたずらになって、時が過ぎました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「私は一生御恩にます、——二つの意味で。」と彼のさっきの弁護依頼人が、相手の手を取りながら、言った。
天台山にも異ならず。但し有待うたい依身いしんなれば、ざればかぜにしみ、くはざればいのちちがたし。ともしびに油をつがず、火に薪を加へざるが如し。命いかでかつぐべきやらん。
またある時、天皇葛城山に登りいでます時に、百官つかさつかさの人ども、ことごとあかひも著けたる青摺のきぬを給はりてたり。その時にその向ひの山の尾より、山の上に登る人あり。
毅堂はきゅうを負うて江戸に出でてより二十年にして始めてにしきて故郷に還ったのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「兄は私より身なりが悪いと気にするからなるべくいいのをせてあげてください」
結婚 (新字新仮名) / 中勘助(著)
一行ことごとく切棒駕籠に乗り、父は例の野袴をはいて、江戸から持って来た切棒に乗り、仲間等はカンバンを着て槍を立て草履を持ち、具足櫃もカンバンをた者が担ぎ、合羽籠といって
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
洋服をるということは、殊に勤めに出る身には洒落や見得ではなく全くの必要からであることは明白であるが、しかし、日本人で洋服を初めて著る人の誰がそれをちょっと洒落に又見得に
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
何のじょうを含みてかわがあたえしくしにジッと見とれ居る美しさ、アヽ此処ここなりと幻像まぼろしを写してまた一鑿ひとのみようやく二十日を越えて最初の意匠誤らず、花漬売の時の襤褸つづれをもせねば子爵令嬢の錦をも着せず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おれに狼の名をせぬよう承知してくれと、貝は拝むような眼附でそう言ったが、すては、ではあたしにも恥を掻かさないでいだいただけで帰ってくれ、貝どのの命にかかわることだからといった。
老蛙田簑て鳴く梅雨の田を子の蛙らは泳ぎすらむか
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
想像するだけでも眠くなるやうだ! 今てゐる
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
立枠たてわく模様の水浅葱みづあさぎ、はでな単衣ひとへたれども
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
犢鼻褌ふんどしあごにはさむやはじめ 汶村ぶんそん
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
こんやから早速てやろう。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
きぬりつけむ日知らずも
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
苔のころもあかき火を持ち
それは年のころ四十前後の、顎鬚をきれいに剃って、フロックコートをた、見たところ非常に気楽な生活を送っているらしい男であった。
常に弊衣をていた竹逕が、その頃から絹布けんぷるようになった。しかしいくばくもなく、当時の有力者山内豊信とよしげ等のしりぞくる所となって官をめた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
家の者が驚いて見ているとどこからともなしに越後ちぢみの浴衣と洋傘こうもりがさが飛んで来た。と、竹竿の一つはその浴衣を、一つは洋傘をさして歩いた。
唖の妖女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
髪は文金の高髷たかまげにふさ/\と結いまして、少し白粉おしろいも濃くけまして、和平夫婦が三々九度の盃を手に取上げる折から、表のかたから半合羽を
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
旅の若い女性にょしょうは、型摺かたずりの大様な美しい模様をおいたる物を襲うて居る。笠は、浅いへりに、深い縹色はなだいろの布が、うなじを隠すほどに、さがっていた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
取るものも取り敢えず、あわてて着物をると、私は云われた場所まで駈けて行ったのです。私は駈けました、力つきて倒れてしまうほど駈けました。
寡婦 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
これは維新前のさむらいの道中などを想像したもので、五月雨のため合羽をて歩いていると、刀が定めて突張るであろうというところから出来た句である。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
而してその人を見れば目つぶらにして顔おそろしく服装は普通の書生のたるよりもはるかにきたなき者を著たり
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そんなら仮りに西洋の留学生としておこう。主人はいつも洋服をて、ハードカラーはいつも雪のように真白。
幸福な家庭 (新字新仮名) / 魯迅(著)
惟うに茶人のる十徳という物あるに因って、茶を植うれば他の作物に十倍増して利益ある由を、この書の出来た貞享五年頃、またはその前に世に言いはや
いろいろ価のやすい日用品、食料品を商ふ市で、主に労働階級の者を相手にしてゐるやうである。川魚を天麩羅てんぷらにして売つてゐたり、類の競売などは幾組もある。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
それからまた台所の方にいたかと思うと、道太が間もなく何か取りかたがた襦袢をに二階へあがったころには、お絹は床をあげて、彼の脱ぎ棄ての始末をしていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
赤い友禅のそでの長いのをていましたが、誰かの黒っぽい羽織を上に引張って手拭てぬぐい頬被ほおかぶりをし、遊び人とでもいうつもりでしょう、拳固げんこふところからのぞかせて歩くのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
児を結び付けたるひもは藤のつるにて、たる衣類は世の常の縞物しまものなれど、裾のあたりはぼろぼろに破れたるを、いろいろの木の葉などを添へてつづりたり。足は地につくとも覚えず。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
するとその門の中には夏外套をた男が一人、何か滔々とうとうとしゃべりながら、「お立ち合い」の人々へ小さい法律書を売りつけていた。僕はかれの雄弁に辟易へきえきせずにはいられなかった。
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「あなた、寒かあなくつて? わたしもう袷せをたつてをかしかあないわね?」
散歩 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)