あらわ)” の例文
この事については私も娘読本をあらわす時くわしく意見を書くつもりですが簡略に申せばず英国風の習慣を採用するのが上策かと思います。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼が新年の賀状を兄に送るや、たちまちその本色を顕わして曰く、「一度ひとたび血を見申さざる内は、所詮しょせん忠義の人もあらわれ申さぬかと存じ奉り候」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
一月八日に保は東京博文館のもとめに応じて履歴書、写真並に文稿を寄示した。これが保のこの書肆しょしのために書をあらわすに至った端緒たんちょである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
右のオカトトキを昔はアサガオと呼んだとみえて、それが僧昌住しょうじゅうあらわしたわがくに最古の辞書である『新撰字鏡しんせんじきょう』にっている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
語学者は語学のためにあらわされたもののみで、この人の著作のように、包括的に西洋というものの全部を見せてくれた人はない。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
女仙外史一百回は、しん逸田叟いつでんそう呂熊りょゆうあざな文兆ぶんちょうあらわすところ、康熙こうき四十年に意を起して、四十三年秋に至りて業をおわる。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
書店の主人みずからもまた短篇小説集『遅日』をあらわした。谷崎たにざき君の名著『刺青しせい』が始めて単行本となって世におおやけにせられたのも籾山書店からであった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
千七百七十年正月七日越後の国塩沢に生れた鈴木牧之ぼくしが天保年間にあらわした『北越雪譜』は、雪に関する考察と雪国の生活とを書いた書物として有名であり
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
いちいち名まで記してあるが、さすが品は言いがたくあらわし難しとのみしてある。しかし、これらは師直一代の淫事としては十のものなら二、三に過ぎまい。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
有名な英国の文士ウエルス氏が近頃一書をあらわして世間を騒がした。一体この人はあらゆる方面の智識をあじおうた人で、文士とはいいながら学術的素養が甚だ深い。
自由の真髄 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
兆民居士が『一年有半いちねんゆうはん』をあらわした所などは死生の問題についてはあきらめがついて居つたやうに見えるが
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼が待ち設けていたのは——もっとも、その後はどうなるかわからないが——たとえば、アンリ・マルタンあらわすところの歴史大全れきしたいぜんが、ねらあやまたず飛んで来ることだった。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
単に学者の書に出ていない、書物をあらわす者が省みなかったというばかりで、無意識ながらも是は我々の祖先が、後代に残しておいてくれた大切なる経済史の史料である。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
されば、この書をあらわすは、もとよりこの苦悶を忘れんとてのわざにはあらず、いな筆をるその事もなかなか苦悶のたねたるなり、一字は一字より、一行は一行より、苦悶は弥〻いよいよまさるのみ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
なげうってモロカイ島の癩病患者を救助し死してのち彼の声名天下に轟きしや或る米国の宣教師にして神学博士なる某が一書をあらわしてこの殉教者生前の名誉を破毀せんとせしがごとく
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ぜひそうなることを僕は心から祈る者である。僕は、近き将来に於て、卓越たくえつした科学小説家のあらわすところの数多くの勝れた科学小説を楽しく炉辺ろへんに読みふける日の来ることを信じて疑わない。
『地球盗難』の作者の言葉 (新字新仮名) / 海野十三(著)
このスケッチの中で知友神津猛こうづたけし君が住む山村の附近を君に紹介しなかったのは遺憾である。私はこれまで特に若い読者のために書いたことも無かったが、この書はいくらかそんな積りであらわした。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
カントは活力論をあらわせり、余はかえって活力をとむらう文を草せんとす。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
抽斎のあらわす所の書には、先ず『経籍訪古志』と『留真譜りゅうしんふ』とがあって、相踵あいついで支那人の手にって刊行せられた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
コンドルセーが山岳党さんがくとうのために獄に幽せらるるや、獄中に安坐して、死を旦夕たんせきに待つに際し、なお人類円満の進歩を想望そうぼうして、人生進歩の一書をあらわせり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
わけて群書を博覧し、郷党のために学業の精舎を建て、府内には大文庫を設け、また古今の兵書を蒐蔵しゅうぞうし、自分でもあらわすなど、彼は、決して、武のみの人ではなかった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四、五年来、わたくしが郊外を散行するのは、かつて『日和下駄ひよりげた』の一書をあらわした時のように、市街河川の美観を論述するのでもなく、また寺社墳墓を尋ねるためでもない。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ハナショウブの花は千差万別せんさばんべつ、数百品もあるであろう。かつて三好学みよしまなぶ博士が大学にいる間に、『花菖蒲図譜はなしょうぶずふ』をあらわしておおやけにしたが、まことに篤志とくしの至りであるといってよい。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
詩文をくして、文集五十巻、詩集五巻をあらわせるも、詹同せんどうと文章を論じては、文はたゞ誠意溢出いっしゅつするをたっとぶと為し、又洪武六年九月には、みことのりして公文に対偶文辞たいぐうぶんじを用いるを禁じ
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あらわすつもりです。委細いさいの事はそれを御覧下さい
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
抽斎渋江道純は経史子集けいしししゅうや医籍を渉猟して考証の書をあらわしたばかりでなく、「古武鑑」や古江戸図をも蒐集して、その考証のあとを手記して置いたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すこぶる分を越ゆるの言をし、先ず『将及私言』九篇をあらわし、ひそかにこれをたてまつり、ついで「急務条議」を上り、また夷人さきに不法のこと多かりしをにくみて、「接夷私議」を作る。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
『噴水の都』La Cité des Eaux と題する一巻の詩集をあらわした。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
とどめられたるそで思いきって振払いしならばかくまでの切なるくるしみとはなるまじき者をと、恋しを恨む恋の愚痴、われから吾をわきまえ難く、恍惚うっとりとする所へあらわるゝお辰の姿、眉付まゆつきなまめかしく生々いきいきとしてひとみ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
どうして、どうして、決して端倪たんげいするわけにゆきません。海をさかしまにし、江を翻す弁才があります。丞相のあらわされたかの孟徳新書をたった一度見ただけで、経をよむごとく、暗誦そらんじてしまいました。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊三郎の女をともと云った。儔は芥川氏にいた。龍之介さんは儔の生んだ子である。龍之介さんのあらわした小説集「羅生門」中に「孤独地獄」の一篇がある。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その頃の西洋人の生活に関する事は当時の英国公使フレーザーの夫人があらわした書にくわしく述べられている。麻布今井町に住んでいた英国人アーノルドも日本に関する二三の書を著している。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
書にあらわしたものが、いつか二十四編になっている。わが言も、わが兵法も、またわが姿も、このうちにある。今、あまねく味方の大将を見るに、汝をおいてほかにこれを授けたいと思う者はいない
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竜池は我名のかくの如くに伝播でんぱせらるるを忌まなかった。ただにそれのみではない。竜池は自ら津国名所と題する小冊子をあらわして印刷せしめ、これを知友にわかった。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
富士見町は武家屋敷のみにして怪し気なる女師匠は麹町三丁目辺町家の間にありしのみなりとぞ。明治十六年酔多道士すいたどうしあらわせし『東京妓情』には麹町の名をかかぐるのみにして明に所在の地を示さず。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
加え、日本流の孫子そんしを時親の名であらわすことができるだろう
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
疇昔ちゅうせきの日わたくしは鹿嶋屋清兵衛かじまやせいべえさんの逸事に本づいて、「百物語」をあらわした。文中わたくしの鹿嶋屋をことばに、やや論讃に類するものがあった時、一の批評家がわたくしの「僭越」を責めた。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ピエール・ロチは欧洲人が多年土耳古を敵視し絶えずその領土を蚕食さんしょくしつつある事を痛嘆して『苦悩する土耳古』と題する一書をあらわし悲痛の辞を連ねている。日本と仏蘭西とは国情を異にしている。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「見事な敵の布陣かな。兵書にあらわしてある通りだ」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)