ずね)” の例文
顔をしかめて向こうずねきずをあらっている者や、水をくんでゆく者や、たわしであらい物をする者などで、井戸いどばたがこみ合っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分ながら愚かに哀れに思えたが、痛いのでいつもそのはかない真似を反射的にした。一度向うずねを靴で蹴られた。その担当は云った。
その人 (新字新仮名) / 小山清(著)
氏はその時受けた感じを、たとえば何か、固い火箸ひばしのようなものでこうずねをなぐられたような——到底説明しがたい感じだといった。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
着物をまくって向うずねの古い傷あとをみせたり、四つか五つの子供のように、玩具を持って来て「いっしょに遊ぼう」とせがんだりする。
しじみ河岸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうして着物をほころばせたり向こうずねをすりむいては家へ帰ってオナン(おふくろの方言)にしかられていたようである。
相撲 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
猶武士は鐵杖てつぢやうにてあたるを幸ひ打据うちすゑたり因て雲助共はかしらを打れいため或は向うずねなぎられて皆々半死半生になり散々にこそ逃去けれ武士は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
先棒はようやく起き上がりましたが、むこずねしたたかにやられて、急には動けません。前後の四挺の駕籠は、このときようやく下ろされて、八人の若い者が
脚がぶくぶくにはれて、向うずねを指で押すと、ポコンと引っこんで、歩けない娘も帰って来た。病気とならない娘は、なか/\町から帰らなかった。
浮動する地価 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
これは又眼もめるばかり真紅まっかの緋縮緬を文字通り蹴出けだしたあたりに、白いろうの様なふくらずねがチラリとのぞいている。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
袷衣あわせぎぬ一枚の全身にチクチク刺さる松や竹の枝、あらわな向うずねから内股をガリガリと引っ掻き突刺す草や木の刺針の行列の痛さを構わずに、盲滅法に前進した。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
高橋を渡って海辺大工町うんべだいくちょうを曲り、寺町から霊岸前へ先廻さきまわりをして、材木屋の処にかくれて居て、侍の向うずね打払ぶっぱらって遣ろうと思い、しきりとねらって居りますると
向うずねの連中が、得たり賢しと自分たちの稽古をやめて、我勝ちにと兵馬の周囲まわりに集まって来たことです。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一人、膝頭ひざがしらと向うずね露出むきだした間にうずたかい、蜜柑の皮やら実まじりに、股倉またぐらへ押込みながら、苦い顔色がんしょく
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お前の左の向うずねにも、たしかに傷がある筈だ。あるだろう? たしかにある筈だよ。それは俺がお前に石をぶっつけた時の傷だ。いや、よくお前とは喧嘩をしたものだ」
親友交歓 (新字新仮名) / 太宰治(著)
祖父は最後にこう呟いて、真赤にやけた向こうずね一撫ひとなでして腰を伸ばした。そして、菊枝を蹴起こしてやるというような意気込みで、彼女の寝ている部屋に這入って行った。
緑の芽 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「向うずねきずだらけだから、直ぐに笹原ささはらが走るんだ。悪いことは出来ないよ」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
日々洋服きて役所会社に出勤する人々の苦しみさぞかしと思へど規則とあれば是非なし。むかしは武士のカラずねやっこの尻の寒晒かんざらし。今の世には勤人つとめにんが暑中の洋服。いつの世にも勤はつらいものなり。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
最も答案の名作は森川信一座の俳優木田三千夫氏からのもので、これはまさに前代未聞の発想法により、現代推理小説のかつて思い及ばざる着眼点から、作者の向っずねをカッ払って出てきたもので
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
あっしばかりじゃねいんです。ガルボの奴もこれになりやした。おまけに奴ときちゃ、奥様から悲哀トリステサけしかけられて、向うずねと頬ッぺたに喰い付かれやがって、ウンウン唸って寝込んでる始末でさあ!」
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
それは向うずねのあたり、という自覚が伴っている。
杉垣 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
先棒はようやく起き上がりましたが、むこずねしたたかにやられて、急には動けません。前後の四挺の駕籠は、このときようやく下ろされて、八人の若い者が
と、飽くまでひとを煙に巻いて逸早いちはやく去ろうとする気振りだったが、隙を見て、検察の一兵が、槍のでいきなり向うずねを払うと、口ほどもなく
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おちづは叫びざまに、屁十の向うずねった。だがそれがまずかった、二人はそういうきっかけを待っていたらしい。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのほかのも、腰から向うずねのあたりに半死半生の大傷を受けて、往来から中の方がのぞかれるという始末。
外を歩行あるくも、からずねを踏んでとぼつきます……と申すが、早や三十年近う過ぎました、老人が四十代、ただ一度、芝の舞台で、この釣狐の一役を、その時は家元
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ、仕方がねえ。これビショ濡れだ、上着も帯も。それにむこずねを少しいたね、痛いかえ」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
缶は、横とびにとんで、艇夫長のこうずねに、ごつんといやな音をたてて、ぶつかった。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
祖父は炉端ろばたで、向こうずね真赤まっかにして榾火ほだびをつつきながら、何かしきりに、夜かし勝ちな菊枝のことをぶつぶつ言ったり、自分達の若かった時代の青年男女のことをつぶやいていた。
緑の芽 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
柿本は、支那商館の石の窓口から、とびこむとき、向うずねをすりむいた。沃丁ヨウチンを塗ったあとが化膿して、巻脚絆にしめられる袴下は、傷とすれた。びっこを引きながら整列に加わった。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
例えば、剣道の試合のとき、撃つところは、お面、お胴、お小手、ときまっている筈なのに、おまえたちは、試合プレイも生活も一緒くたにして、道具はずれの二の腕や向うずねを、力一杯にひっぱたく。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
向うずねぶっぱらえなんかと仰しゃるお気早きばやな方もございますが、正直に申すとまア左様そう言ったようなもので、門外おもてにたちました一中節の門付屋さんでげすが、しきりにうちなかをのぞいて居ります。
つぐ遠寺ゑんじかねガウ/\とひゞき渡りいと凄然ものすごく思はるればさしも強氣がうきの者共も小氣味こきみ惡々わる/\足にまかせて歩行あゆむうちあをき火の光り見えければあれこそ燒場やきば火影ひかげならんと掃部は先に立て行程にはや隱亡小屋をんばうごや近接ちかづく折柄をりから道の此方こなたなる小笹をざさかぶりし石塔せきたふかげより一刀ひらりと引拔稻妻いなづまの如く掃部が向うずね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「まごまごしやがると、向うずねをカッ払うぞ、石原の兄哥の手柄を喜ぶような心持になったら、改めて逢ってやる」
つかの長い大小を突出し、二本のからずねと、二本のこじりを突っ張って歩く男だての姿から来た町の綽名あだななのである。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この野郎、云うにこと欠いては組の若い者が全滅たあなんだ、ばくがおとといの夢を吐きゃあしめえし、途轍とてつもねえことをほざくと向うずねをかっ払うぞ」
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
動きの取れない筆者の手の甲や向うずねに武者振付いて遠慮なく血を吸う。かゆくてたまらないのでソーッと手を遣って掻こうとすると、直ぐに翁の眼がギラリと光る。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
道をげてやって来たものでげすが、どうもはや、慣れぬことで、道を枉げ過ぎちまったものでげすから、いやはや、あっちの谷へ転げ落ちては向うずねを擦りむき
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と思う暇もなく、一同のむこずねは、いやッというほどひどい力ではらわれてしまいました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
居屈いかがみしに、はばかりさまやの、とてもすそを掲げたるを見れば、太脛ふくらはぎはなお雪のごときに、向うずね、ずいと伸びて、針を植えたるごとき毛むくじゃらとなって、太き筋、くちなわのごとくにうねる。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まごまごしやがると、向うずねをカッ払うぞ、石原の兄哥の手柄を喜ぶような心持になったら、改めて逢ってやる」
「まだ云ってやがる、いってえおれがいつけえず買いをしたってんだ、もういっぺんぬかしてみろ、大家だろうが紺屋こうやだろうが向うずねをかっ払って……」
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
が——槍ので、向うずねを払われたので、信長の馬前から十歩ほどてまえで、一度、もんどり打って倒れた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思い切り向うずねを掻っ払ってくれようと思って、一週間ばかり心待ちに待っていたがトウトウ来ない。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それ位にまるならば、まだよかったのであるが、更に更に、身体は小さくちぢまっていった。私はキャラメルの箱に蹴つまずいて、向うずねをすりむいた。馬鹿馬鹿しいッたらなかった。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
ピグミーは、小さい胡坐あぐらを一つ組んで、両手でもってその向うずねと足首のところを抱え込んで、ならず者が居催促に来たような恰好をして、寝入りばなの弁信に退引のっぴきさせまいとの構えです。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夜鷹よたかなんか拾って来やがると、勘弁しねえよ。薪雑棒まきざっぽうむこずねをかっ払って、西の海へ叩き込んでやるから」
それからまもなく、正四郎は蓑を着、筍笠たけのこがさをかぶり、尻端折しりっぱしょりのからずね草鞋わらじばきで、家から一丁ほどはなれた、道のつじに立っていた。三月下旬だから寒くはない。
その木戸を通って (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのとたん、四馬剣尺は脚をあげて、いやというほど、博士の向うずねりあげた。机博士はあまりの痛さに、あっと叫んでとびあがったが、すぐに、木戸と波立二におさえつけられた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
世間並みに見やがっておつりきなことをかしゃあがると、向うずねを掻ッ払うぞ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「怪我もちっとばかりしているようだよ、むこずねがヒリヒリ痛み出した」
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)