ぱし)” の例文
僕は機関室へ帰ると直ぐに、汽鑵ボイラー安全弁バルブ弾条バネの間へ、鉄のきれぱしを二三本コッソリと突込んで、赤い舌をペロリと出したものだ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そんなのを撲った日にゃかたぱしから撲らなくっちゃあならない。君そう怒るが、今の世の中はそんな男ばかりで出来てるんですよ」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分じぶん同年齡おないどし自分じぶんつてる子供こどものこらずかたぱしからかんがはじめました、しも自分じぶん其中そのかなだれかとへられたのではないかとおもつて。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
それも今では出来なくなって見れば、やくざの道じゃ一ッぱしのつもりでも、素ッ堅気の道にかけては取り柄のねえあっしだ。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
笹村よりかむしろ一歩先に作を公にしたことなどもあり、自負心の高い深山が、ぱし働き出そうとしている様子がありあり笹村の目に見えた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
とこう書いてあったから、農学校の畜産ちくさんの、助手やまた小使などは金石でないものならばどんなものでもかたぱしから、持って来てほうり出したのだ。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「二尺のこいを二ひきってくれと、二三日前から頼まれて、この広い湖へかたぱしから網を入れているが、鯉はおろか、雑魚ざこもろくろくかかりゃしない」
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
地獄で仏とはこのことや、蝶子は泪が出て改めて、金八が身につけるものをかたぱしから褒めた。「何商売がよろしおまっしゃろか」言葉使いも丁寧ていねいだった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
これをていた二人ふたり小学生しょうがくせいは、なんだか息詰いきづまるようながして、をみはりました。おとこは、大急おおいそぎで獲物えものかたぱしからころして、ふくろなかれていました。
すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼は三十何本かある植込みから、芭蕉の広葉の数をすくなくするため、かたぱしから広葉を切り落して行った。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ホホウ! そして何だか微笑まれる。紫のきれぱしとばかり感じられない親密さがあるのであった。
毛の指環 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「すべって転ばねえのがお仕合わせだ。なんでもいいから、切れっぱしか麻をすこしくんねえか」
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
どうやらこうして気儘きまま飲食のみくいができて、ブラブラ遊んでいるのでございますよ、当分は、躑躅ヶ崎のお下屋敷のかたぱしをお借り申して、あすこに住んでいるのでございます
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あわてて箪笥たんす抽斗ひきだしをかけたしん七は、松江しょうこうのいいつけどおり、かたぱしから抽斗ひきだしはじめた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
と清之介君は一ぱし遣り込めた積りだった。実務家の諧謔味かいぎゃくみは大抵これぐらいのところである。
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
己は其れ等の書物を見たら、藝術に就いてのやゝ明瞭な概念が得られるだろうと云う希望を以て、かたぱしから一生懸命に耽読たんどくした。最初に取り付いたのはハムレットであった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「えッ! その十七人の御書院番衆を、これから、片っぱしから首を落して廻るんですって?」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
両人「この乞食め、何を小癪こしゃくなことをやがる、ふざけた事をすると片ッぱしから打殺ぶちころすぞ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
東京中のあらゆる階級の女の、あらゆる指を、彼はかたぱしから見て来たのだった。省線電車の中に並んだ女達がつつましく膝の上に揃えた指、乗合自動車の吊り革をつかむ女達の指。
指と指環 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
夜の十一時過ぎに夜食が出て、古いひからびたチーズのれっぱしと、ハムを刻みんだみょうに冷たい肉饅頭にくまんじゅうとだけだったが、それがわたしには、どんなパイよりもおいしく思われた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
また漸く口にのぼせた文句だけはあのやうにぱし偉さうな美辞麗句に富んでゐる見たいであるが、それを吐き出す様子の切な気に見ゆると云つたらない! 躓いたり、途切れたり
歌へる日まで (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
かたきと付ねらふ事ひとへ麁忽そこつの至りなり然ながらしひ勝負しようぶのぞむと成ばかたぱしより我手にかけ今のまよひを覺してくれんと彼の宅兵衞を殺して奪ひ取たる脇指わきざしを引拔て一討ひとうちとお花を目掛めがけうつかゝるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『糸の切れっぱし——糸の切れっ端——ごらんくだされここにあります、あなた。』
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
手には刀をふりまわし、足はそこらの物売ものうりのかたぱしからちらしてゆく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不意打を喰はせてとりこにするのだが、あとの連中は先へ來てゐる自分の仲間が此樣な災難に逢ツてゐるとは知らない。で、あとから後から飛んで來るのを、かたぱしから叩落して、螢籠の中へ入れる。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
(腕組をしたまま、一同を見まわす)わたしは片っぱしから退治たいじして見せる。
三つの宝 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
言語学者は榊原と姓のつく者をかたぱしから記憶のなかに呼び出してみた。
「船長、あの曲馬団の連中を、かたぱしから、しらべて見てはどうでしょうか。そうすれば、松ヶ谷団長をやっつけたり、丁野十助を血痕けっこんだらけにしてしまった悪い奴が、見つかるかもしれません」
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「退校させるならさせるがいいさ、かたぱしからたたききってやるから」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
冗談はいてくれ。……おりゃ真剣でいっとるんだ。おれたちは木村に用はないはずだ。おれは用のないものは片っぱしから捨てるのが立てまえだ。かかあだろうが子だろうが……見ろおれを……よく見ろ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
どれからでも、かたぱしから片をつけて行かなくちゃいかんよ。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
そんなのをかたぱしから研究材料にして切り散らしたあげく、大学附属の火葬場で焼いてこつにして、五円の香典を添えて遺族に引渡す。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
したがって水の少ない割には大変はげしい。はなぱしの強い江戸ッ子のようにむやみやたらに突っかかって来る。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのときはもうまっ先の烏の大尉は、四へんほど空で螺旋うずを巻いてしまって雲の鼻っぱしまで行って、そこからこんどはまっぐに向うのもりに進むところでした。
烏の北斗七星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
われらずあいちやんは小枝こえだきれぱしひろげ、それをいぬころのはうしてやると、いぬころはたゞちに四ッあしそろへてくうあがりさま、よろこいさんで其枝そのえだえつきました
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
除隊の挨拶に廻りながらも、伝平は、部落中の馬小屋を、かたぱしから覗いて歩いた。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
もう丁年に近いから、一ぱし相談相手になる。
小問題大問題 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
始める! といふことになつたら他の倶楽部員達は皆な何処かへ行つてしまつた、一ツぱし忙しい用事でもありさうに! 変な奴等だな——。残つてゐるのは飲酒家のW君と禁酒家のD君と、そして、何時も君達二人の仲裁者である僕との三人だけか?
新興芸術派に就ての雑談 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
高等数学の本なんかテンデわからない奴を、かたぱしから一冊分丸諳記さ。そんな無茶をやった事があるかい。無いだろう。トテモお話にならないんだ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分は積んである薪をかたぱしから彫って見たが、どれもこれも仁王をかくしているのはなかった。ついに明治の木にはとうてい仁王はうまっていないものだと悟った。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鷺のちぢめて降りて来る黒い脚を両手でかたぱしから押えて、布のふくろの中に入れるのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
われらずあいちやんは小枝こえだきれぱしひろげ、それをいぬころのはうしてやりました
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「殺されるとも。ソビエットの唯物主義の奴等は血も涙もないんだからね。政治外交上の問題で少しでも疑わしい奴はかたぱしから殺して行くのが奴等の方針だよ」
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かたぱしから放逐でもしなくっちゃ不公平でさあ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
怪しいと思う奴をかたぱしからタタキ上げたらしい記事が、それから二三日おいて連続的に掲載されているが、つまらない狐鼠泥棒こそどろぐらいのものを掘出しただけで
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
裏切者をかたぱしから死刑に処するのを見ても、その組織の厳重さと、仕事の大きさが想像される。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かたぱしから不得要領の大欠伸おおあくびの中に葬り去っているのはソモソモ何という大きな無調法であろう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
やり刀剣かたなや、投げ縄、弓矢。棍棒こんぼうかついだ役人共が。かたぱしから頭を砕いて。手足胴体チリチリバラバラ。焼いて棄てたり樹の根に埋めたり。ちょうどこの節おかみでなさる。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
上って来た奴はかたぱしから二等室に担ぎ込んで水を吐かせる。摩擦する。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
事件はかたぱしから迷宮に這入って行くんだからね。
無系統虎列剌 (新字新仮名) / 夢野久作(著)