砂煙すなけむり)” の例文
よ、かしらなきむくろ金鎧きんがい一縮いつしゆくしてほこよこたへ、片手かたてげつゝうままたがり、砂煙すなけむりはらつてトツ/\とぢんかへる。陣中ぢんちうあにおどろかざらんや。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
京橋の河岸通から吹いて來る折からの風と共に目もけない砂煙すなけむりくらつて、自分等二人は休むともなく其の邊のビイヤホオルに這入つた。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
護送役人の下知げじに従いまして、遠島の罪人一同上陸致しますると、図らずも彼方あなたに当りパッパッと砂煙すなけむり蹴立けたって数多あまたの人が逃げて参ります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
路にははんのまばらな並木やら、庚申塚こうしんづかやら、はたやら、百姓家やらが車の進むままに送り迎えた。馬車が一台、あとから来て、砂煙すなけむりを立ててして行った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
しかし、ガンたちが、まだ水の上におりきらないうちに、暴風ぼうふうがおそってきました。暴風は砂煙すなけむりをまきあげ、海のあわを吹きとばし、小鳥をふきまくりました。
すると、また、けたたましいおとをたて、あちらから、オートバイが砂煙すなけむりげてやってきました。
写生に出かけた少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうして味方の砲丸が眼の前へ落ちて、一度に砂煙すなけむりがるとそのきょに乗じて一間か二間ずつい上がるのですから、勢い砂煙にまじる石のために身体中きずだらけになるのです。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なぜなら、参ったのは僕の方が先だったから、彼がいつも変わらぬペースで進んで行くのに反し、僕の方は絶えずわれわれを追い越して行くバスやトラックの砂煙すなけむりに腹を立てた。
墓場 (新字新仮名) / 西尾正(著)
さっきも僕は、とつぜん海底の丘のかげから急に砂煙すなけむりがむくむくとまるで噴火ふんかのようにたちのぼり始めたのを見つけたのだ。彼奴らの仕業しわざなんだ。彼奴らが仕事を始めたしるしなんだ。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うたづる時、一隊の近衛騎兵このえきへい南頭みなみがしらに馬をはやめて、真一文字まいちもんじに行手を横断するに会ひければ、彼は鉄鞭てつべんてて、舞立つ砂煙すなけむりの中にさきがけの花をよそほへる健児の参差しんさとして推行おしゆ後影うしろかげをば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
午後五時前にとをばかりの飛行機が引出されたが、風が強いので皆地をつて発動機モツウルの具合を試したり、滑走試験を続けたりして居る。それ砂煙すなけむりを蹴立てるので広い場内が真白まつしろに曇つて仕舞しまつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かはらにしたやうな眞赤まつか砂煙すなけむりに、咽喉のどつまらせてかへりがけ、見付みつけやぐら頂邊てつぺんで、かう、薄赤うすあかい、おぼろ月夜づきよのうちに、人影ひとかげ入亂いりみだれるやうな光景くわうけいたが。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ほとばしる砂煙すなけむりさびしき初冬はつふゆの日蔭をめつくして、見渡す限りに有りとある物を封じおわる。浩さんはどうなったか分らない。気が気でない。あの煙の吹いている底だと見当をつけて一心に見守る。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
當時たうじ寫眞しやしんた——みやこは、たゞどろかはらをかとなつて、なきがらのごとやまあるのみ。谿川たにがはながれは、おほむかでのたゞれたやうに……寫眞しやしんあかにごる……砂煙すなけむり曠野くわうやつてた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
(喧嘩の夢を見て、寐惚ねとぼけたんだよ。)とばかりお夏は笑っていたが、喧嘩の夢どころではない、殺人の意気天にちゅうして、この気疾きばやの豪傑、月夜に砂煙すなけむりいて宙を飛んだのであった。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此の声はしらを動かして、黒燻くろくすぶりの壁、其のみのの下、あわせをかけてあつたところくだん巌形いわおがた破目やれめより、岸破がば摚倒どうだおしにうちへ倒れて、炉の上へ屏風びょうぶぐるみ崩れ込むと、黄に赤に煙がまじつてぱっ砂煙すなけむりあがつた。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
砂煙すなけむりを上げて町のかた一散いっさんげたのである。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)