申分もうしぶん)” の例文
雨か雪が降った後で非常によく晴れた、そして少くとも北西の風が秒速十米前後の速力をもって吹いて居る日であれば先ず申分もうしぶんがない。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
おこがましい申分もうしぶんかはぞんじませぬが、そのてん御理解ごりかい充分じゅうぶんでないと、地上ちじょう人類じんるい発生はっせいした径路いきさつがよくおわかりにならぬとぞんじます。
いつも白と紺と藍との三色を用い、経糸たていとは必ず麻にして、ひとえに丈夫を心掛けます。野良や山での仕事着として申分もうしぶんありません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
小野さんは申分もうしぶんのない聟である。ただ財産のないのが欠点である。しかし聟の財産で世話になるのは、いかに気に入った男でも幅がかぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
気の利いた所が菊五郎きくごろうで、しっかりした処が團十郎だんじゅうろうで、その上芝翫しかんの物覚えのよいときているから実に申分もうしぶんはございません。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
申分もうしぶんなく完成されておりますので……あとに残っている仕事と申しますのは唯一つ、貴方が昔の御記憶を回復されまして、その実験の報告書類に
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何不足のない、申分もうしぶんのない、目をねむれば直ぐにうとうとと夢を見ますような、この春の日中ひなかなんでございますがね、貴下あなた、これをどうお考えなさいますえ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実に何から何まで、申分もうしぶんなくお膳立てが揃っているんだよ。流石さすがの僕もゾッとしないではいられなかった
町いったいは、申分もうしぶんのない非常管制ぶりだった。直江津の全町は、まったく闇の中に沈んでいた。旗男は、この町の防空訓練のゆきとどいていることに感心していた。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その婦人なら申分もうしぶんない料理女だからと云う返事であったので即座にこの女をやとうことにめた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
その頃の青年華族などは、適当にケチで、お品がよくて、個性が無くて、積極的な行動をつつしんで、自分の意見をさえ言わなければ、それでず同族間の評判は申分もうしぶん無かったのです。
敬礼を止める引越ひきこして見れば誠に広々とした屋敷で申分もうしぶんなし。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
最初さいしょ彼女かのじょおこった現象げんしょうしゅとして霊視れいしで、それはほとんど申分もうしぶんなきまでに的確てきかく明瞭めいりょう、よく顕幽けんゆう突破とっぱし、また遠近えんきん突破とっぱしました。
山の手の高台からは適当の距離を隔てていたし、邪魔になる程の高い建物はあたりに皆無だったので、眺望は申分もうしぶんがなかった。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
士「言訳をするのに巴屋はなか/\旨く食わせるなどとは不埓ふらち申分もうしぶん、やい其処そこに転がっているのは供か連れかなんだ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ただその児が、確実に呉家の血統を引いた男の児でさえあれば、学術研究上、申分もうしぶんないと思っていただけなのだ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「どうですか、余りおしつけがましい申分もうしぶんではありますが、心はおなじ畜生でも、いくらか人間の顔に似た、口を利く、手足のある、廉平の方がいですか。」
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「アア、あでやかあでやか、これで申分もうしぶんはない。さて、今度は頭の番だ」
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
モデル台の上に立った多与里は、最早以前の美しい泥人形の小娘ではなく、左京の操るたくみな恋の技巧に躍らされて、燃えさかる青春の象徴であり、申分もうしぶんのない八百屋お七的な激情の女性だったのです。
井伊掃部頭と云う人は純粋無雑、申分もうしぶんのない参河武士みかわぶしだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
母親ははたいへん縹緻きりょうよしなので、むすめもそれにひなまれなる美人びじんまた才気さいきもはじけてり、婦女おんなみち一ととおりは申分もうしぶんなく仕込しこまれてりました。
今も残っているかどうか分らぬが、申分もうしぶんの無い野営地である。此処ここから右に尾根を伝いて四十分登れば、高さ二千十一米八の竜バミ山へ出られる。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
利「これは不都合な申分もうしぶんです、知らん方をうちへ上げる訳にはゆきません、主人に聞かんうちは上げられません」
弱輩な申分もうしぶんですが、頭を掻毟かきむしるようになりまして、——時節柄、この不景気に、親の墓も今はありません、この土地へ、栄耀えようがましく遊びに参りましたのも、多日しばらく
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちなみにその診察の結果は全快、間違いなし。健康申分もうしぶんなし。長生き疑いなしというものであった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ウン、非常に特徴があるでしょう。実に申分もうしぶんのない指紋だ」
庭の清潔きれいなこと、赤松の一と抱えもあるのがあり、其の下に白川御影しらかわみかげ春日燈籠かすがどうろうがあり、の木の植込うえご錦木にしきゞのあしらい、下草の様子、何やかや申分もうしぶんなく
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
尤も前日に大丸おおまるか弁天湯又は郭公湯あたりに一泊すれば申分もうしぶんはない。お熊見曾根から隠居倉いんきょぐらを経て西側の三斗小屋さんどごや温泉に下る道もあって、二時間あれば充分である。
即ち暑さ寒さをしのぎ得る皮肌、うろこ、泳ぎ廻るひれ尻尾しっぽ、口や眼の玉、物を判断する神経なぞが残らず備わった、驚くべき進歩した姿になる。……ああ有難い、これなら申分もうしぶんはない。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「少し分りにくいかも知れぬが、これなら申分もうしぶんがないな」
算盤が恋を語る話 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
清「顔ばかりじゃねえ、何処どこから何処まで申分もうしぶんがねえ女だが、あれを女房にょうぼに貰いていが礼はするが骨を折って見てくれめえか、そうすれば親も弟もみんな引取ってもいが、どうだろう」
野営には申分もうしぶんのない地形である。北から西は五、六尺の高さに大岩が重り合って、自然の石垣を作っている。其下に浅いが冷い水を湛えた二坪あまりの池があるので炊事に不自由はない。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
しかし真実の犯罪としても、申分もうしぶんのない動機だ。
断崖 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
登山ではこの自己陶酔に申分もうしぶんのない好条件がひとりでに備わることが多い。従って遭難の危険がある訳だ、で努めて避けるようにしているが、一人の場合はともすると虜にされることがある。
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
武「尤も左様で、其のもとの仰しゃる事においてはいさゝかも申分もうしぶんはございません」
実に申分もうしぶんのない方法があった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)