烏滸おこ)” の例文
こう申しては、烏滸おこのようなれど、いつも道中には、供の者十四、五名は連れ、乗り換え馬の一頭も曳かせて歩く身分の者でござる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
書についての私の経歴というようなものを、烏滸おこがましいのでありますが、一つの挿話としてお聞きをねがいたいのであります。
能書を語る (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
しかるに彼はこの志士が血の涙の金を私費しひして淫楽いんらくふけり、公道正義を無視なみして、一遊妓の甘心かんしんを買う、何たる烏滸おこ白徒しれものぞ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
『後漢書』南蛮伝に交趾の西に人をくらう国あり云々、妻を娶って美なる時はその兄に譲る。今烏滸おこ人これなり。阿呆を烏滸という起りとか。
芸術の鑑賞と批評——などと鹿爪しかつめらしく言うのも烏滸おこがましいが、優れたる探偵小説なるものは誰が読んでも面白いものでなくてはならない。
「二銭銅貨」を読む (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
単に一人の口よりほしいまゝに、いづくの雲はそれのものの形に似たりなど云はんは、余りに烏滸おこにしれたるわざなるべし。
雲のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「ウム……言われて名乗るも烏滸おこがましいが、練塀小路ねりべいこうじかくれのねえ、河内山宗俊こうちやまそうしゅんたァ俺のことだッ」とでもやられて見ろ、仮令たといその扇子が親譲りの
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
自分の烏滸おこのこころに引きくらべて、雪之丞が、現在、平気をよそおってはいながらも、内心では生きた気持もないものと信じ、さんざんになぶってから
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
わたし自身の心のうちの観念がせいぜいよく考えて見ても、すでに曖昧糢糊あいまいもこたるものであるから、そんなことを書こうなどというのは烏滸おこがましきわざだと思う。
これにはわたくし、ほとほと感心してしまいまして、自分なんぞが監督したり心配したりするなんて烏滸おこがましいことだと、此方がはずかしくなってしまいました
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「いかがでござりましょう! お殿様方に御贔屓ごひいき願いますのも烏滸おこがましいようなむさくるしい宿でござりまするが、およろしくば御案内致しまするでござります」
世界は客観的理性の自己発展の世界となった。世界は、しかし烏滸おこがましいが、私はヘーゲルにおいても、絶対否定的自覚の立場に到らなかったとも思うのである。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
文献の有無を検討するにしても鶴見はまるで不案内である。こんな疑惑は畢竟ひっきょう無知のさせる烏滸おこの沙汰である。そうであって欲しいと思って見ても、不審は解けない。
する術あるを聞きながら、ただに死ぬを待つこそ烏滸おこならめ、その術ようせずば死なんのみ。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そして彼らは父がかかる怯懦きょうだなる器量きりょうをもって、清盛きよもりを倒そうともくろんだのは、全く烏滸おこの沙汰であると放言しました。むろん、わしは彼らの話の細部さいぶは信じなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
考えて見ればそれらの人間が大衆を云々するなどとは烏滸おこがましい、という風な論である。
文学の大衆化論について (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
烏滸おこがましうござりますが、従つて手前どもも、太夫様の福分ふくぶん徳分とくぶん未曾有みぞう御人気ごにんきの、はや幾分かおこぼれを頂戴ちょうだいいたしたも同じ儀で、やうな心嬉しい事はござりませぬ。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
れに私の商売なるものが——商売というのも烏滸おこがましいが、売文に依って口過ぎを為し——それも通俗物の小説などで——生活くらしを営んで居ったので、何処へ住もうと随意ままであった。
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
探偵小説作家なぞと呼ばれて返事を差出すのは、如何にも烏滸おこがましい気がして赤面します。けれども元来が探偵小説好きなのですから、ソウ呼ばれますと何がなしに嬉しいことも事実です。
涙香・ポー・それから (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分から言うのは烏滸おこがましいが、現在自分の身柄がすでに貴族でないと誰が言う。日本に於て、殿様の階級に属して天下の直参を誇っていた身だ。それに田山白雲はまた一種の豪傑である。
然し東京附近で冬を云々するのは烏滸おこがましい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「まだ人なみのこつがらも持たぬ乳臭児にゅうしゅうじの分際で、宗規しゅうきみだし、烏滸おこがましい授戒など受けると、この叡山の中にただはおかぬぞと」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
バイロン卿の例を引くのも烏滸おこがましいが、由来私は最も花々しく文壇へ出た一人であるとされてゐる。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
妾が烏滸おこそしりを忘れて、えて半生の経歴をきわめて率直に少しく隠す所なくじょせんとするは、あながちに罪滅ぼしの懺悔ざんげえんとにはあらずして、新たに世と己れとに対して
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
烏滸おこがましゅうござりますが、従って手前どもも、太夫様の福分、徳分、未曾有みぞうの御人気の、はや幾分かおこぼれを頂戴いたしたも同じ儀で、かような心嬉しい事はござりませぬ。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「へへ、これはこれはお姫様、とんだ失礼を致しまして真っ平ご免遊ばしませ。なアんて云うのも烏滸おこがましいがわっちは泥棒の鼠小僧、お初お目見得に粗末ながら面をお目にかけやしょう」
善悪両面鼠小僧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
烏滸おこがましくも小説として世間に面をさらす機会はなかったのである。
文芸時評 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
およそ天下が広いというても。人の脳髄ホントに調べて。腹の立つほど簡単明瞭。奇妙キテレツ珍妙無類な。脳の作用を見貫みぬいた者なら。問わず語りで烏滸おこがましいが。ここに居りますわたくしばっかり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お手討も時代めいて些か烏滸おこだが、そうでもするほか、面目を保つ方法がない。そんなことを考えているうちに、自己的な才覚ばかりが発達して、どうでもやるほかはないという方へ気持が傾いた。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「拙者は、お奉行榊原主計さかきばらかずえ殿のご懇望もだしがたく、若輩じゃくはい烏滸おこがましいとは存じながら、ご助勢に参った、羅門塔十郎らもんとうじゅうろうと申しますもの」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これまで、民衆を指導するなどと考えていたのは烏滸おこの沙汰である。
「えい、この烏滸おこ白痴者たわけものめ! そなた盗心を蔵しおるな!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「お引き止め申して相済みません。実は、烏滸おこがましゅうございますが、さるお人に代って、おねげえ申したいことがあるんでごぜえます」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
決して、ただしざまに申したり、ぐちもてあそんだ次第ではありませぬ。どうぞ、烏滸おこがましい女の取越し苦労と、お聞き流し下さいませ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「きょうまでおれは、土や水へ対して、烏滸おこがましくも、政治をする気で、自分の経策に依って、水をうごかし、土をひらこうとしていた」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山村の一儒生じゅせい烏滸おこなる言とお怒りなくば、一言申してみましょう。——一体、治乱とは、この世の二つのそうかまた一相か。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ご家中の忠義者へ、まだ身素姓さえ告げぬ私の烏滸おこな腕立て。さぞ不快にごらんでしたろう。何とぞ、平におゆるしを」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「諫言と申しては、一益ごときが、烏滸おこに聞えまするが、何故に、黒田官兵衛の質子ちしを、にわかに、殺せとお命じにござりますか。一応、御熟考のうえで」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひるむな、怯むな。足利とんぼが血迷うて、執権どのへの畏れも忘れ、烏滸おこな手むかいに出たまでのこと。かまわん、かもうことはない。おれどもは公儀の御命を
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これ、これッ、忠次。何をいうか、何をッ。……かかる大戦に、そんな小策など、何の役に立とうぞ。さてさて汝は烏滸おこなる男かな、いで、一同も退出退出」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「途中で脚を折るような馬を持って、烏滸おこがましい口を叩くな。不吟味なる若者めが、以後、つつしめ」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「では、烏滸おこな沙汰ですが、私が山僧にかわって聞きかじりの請売うけうりを少しご案内いたしましょうか」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
烏滸おこがましいが、剣の心をもって、政道はならぬものか、剣の悟りを以て、安民の策は立たぬものか。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ろくな記憶も、語るべき内容もないのに、四半自叙伝などと烏滸おこなタイトルを掲げ、気恥かしいことだった。つい、云うまじき事まで云ってしまった気がしてならない。
所詮しょせん、まだ若年者、御師範などとは、烏滸おこがましゅう思われますが、お相手という程なれば」
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御房の迷いと、拙者の迷いとは、だいぶへだたりがある。——われらごとき武辺者ぶへんしゃは、まだまだ迷いなどというのも烏滸おこがましい。ただあまりに血に飽いてすさんだ心のやすみ場を
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古鎧ふるよろい錆槍さびやり一筋ひとすじ持って駈けつけ参りました、微衷びちゅうをおくみとり下さって、籠城の一員にお加えねがいとうござる。烏滸おこながら一死を以て、亡君の御恩におこたえ申したいので……
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……いささか烏滸おこなりとも存じましたが、将来、わが小寺家と荒木家とは、同じ麾下と、同じ目的のために、一心提携ていけいいたして参らねばならないことでもあり、旁〻かたがた、帰国の途中
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨年改易かいえきされて甲賀家のたえたことをしるし、最後に、自分は仔細あって、阿波守の身辺に接しもし、また世阿弥の所在を知りたいこともあるので、烏滸おこながら、公儀の隠密として
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……烏滸おこな言いぶんですが、この山寨にも兵三百、財物十車、そのほか武器馬匹もかなりある。それを土産みやげに、ぜひお仲間入りをえたいものと存じます。よろしく一つおとりなしを
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)