演劇しばい)” の例文
「親方、茶かさずにさ、全くだね、私あ何だ、演劇しばいでするかたきッてものはちょうどこんなものだろうと思いますぜ、ほんとうに親の敵。」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
でっぷりと肥えし小主計は一隅いちぐうより莞爾かんじと笑いぬ。「どうせ幕が明くとすぐ済んでしまう演劇しばいじゃないか。幕合まくあいの長いのもまた一興だよ」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
わたしが榎本君に対して不平らしい口吻こうふんを洩らしたのは、要するに演劇しばいの事情というものにいて私の盲目を証拠立てているのであった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「無駄づかい、無駄づかいも、衣裳きもの道楽とか、演劇しばい道楽とか、そんな道楽なら、たいしたこともないが、いけないのだ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
代はり目毎のお演劇しばい行きも、舞台よりは、見物の衣裳に、お眼を注がせらるる為とやら。そんな事、こんな事に、日を暮らしたまふには似ぬ、お顔色いろの黒さ。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
前回参看※文三は既にお勢にたしなめられて、憤然として部屋へ駈戻かけもどッた。さてそれからは独り演劇しばいあわかんだり、こぶしを握ッたり。どう考えて見ても心外でたまらぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「おかしらがゆうべ、派手なことをなすッちまった旅芸人の女太夫白秀英はくしゅうえい演劇しばい小屋でございますよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
市川團十郎氏の演劇しばいと三遊亭圓朝氏の談芸はなしを好み、常に之を見、之を聞くを以て無上の楽しみと為せるが、明治九年以来当地に移住せるを以て、復両氏の技芸を見聞する能わず。
松の操美人の生埋:01 序 (新字新仮名) / 宇田川文海(著)
かつて大槻内蔵之助おおつきくらのすけ演劇しばいありし時、かれ浅尾を勤めつ。三年みとせあまりさきなりけむ、その頃母上居たまいたれば、われ伴われて見にきぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日本の演劇しばいで蛙の声を聞かせる場合には、赤貝をり合せるのが昔からのならいであるが、『太功記たいこうき』十段目の光秀が夕顔棚ゆうがおだなのこなたよりあらわでた時に
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
奥様それでは、私も、お怨み申さにやなりませぬ。口から、口へ、口うつし。演劇しばいで見ました、その摸型かたを、一生懸命、やつとの事で、繋ぎ止めたるお生命を。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「それじゃ、素行みもちでもわるいのか、演劇しばいなんかへ往ってると、俳優と関係があるとかなんとか、人はへんなことを云いたがるものだよ、何かそんな噂でもあるのか」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「そいつあ、ちと、さっそく過ぎますが、どうですえ旦那。ひとつ面白れえ小屋掛け演劇しばいを……いや演劇しばいでもねえナ……水芸の太夫たゆうさんですがね、ちょっとご見物になりませんか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このお雛様の節句と来た日にゃ、演劇しばいも花見も一所にして、お夏さんにかかる雑用ぞうよう、残らず持出すという評判な祭をしたもんですッさ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その演劇しばいは正月の八日が初日であったように記憶している。その前年の暮れに、私が途中で榎本君に逢うと、彼は笑いながら「君、怒っちゃいけないよ」と云った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
寺の境内には演劇しばいなどもかかって賑わっていた。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お前さんのとこのような家風で、婿を持たした娘たちと、情事いろごとをするくらい、下女を演劇しばいに連出すより、もっと容易たやすいのは通相場よ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
現在日本の演劇しばいをどう書いてよいのか、自分も実は宇宙に迷って行き悩んでいるのであるから、とてもここで大きい声で脚本の書き方などを講釈するわけには行かない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大向うが喝采やんやでない迄も謹んで演劇しばいをする分にゃあ仕損ないが少ないさ、酔っぱらって出懸けてみなさい、ほかの酔っぱらいと酔っぱらいが違うんだよ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わざと俳優に三国志の演劇しばいを演じさせると、たちまちに狂風どっと吹きよせて、演劇の仮小屋の家根も舞台も宙にまき上げて投げ落したので、俳優のうちには死人も出来た。
ともすればきっとなりて居直りて足を構え、手拍子打ち、扇を揚げて、演劇しばいの物語の真似まねするがいとたくみなれば、皆おかしがりて、さは渾名あだなして囃せるなり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほかに売る先もないので、すたり物として空き屋のなかに久しく押し込んで置くと、月の明るい夜にその人形が幾つも現われて、あるいは踊り、あるいは舞い、さながら演劇しばいのような姿を見せた。
弱虫の意気地なしが、徳とやらをもって人をなずける。雪の中を草鞋わらじ穿いて、みの着て揖譲おじぎするなんざ、惚気のろけて鍋焼をおごるより、資本もとでのかからぬ演劇しばいだもの。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
停車場ステイション演劇しばいがある、町も村も引っぷるってたれが角兵衛に取合とりあおう。あわれ人の中のぼうふらのようなせわしい稼業のたち、今日はおのずからかんなのである。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうだ、今のうちには限らずな、どこでもいぞ、あの印の付いた家を随時うかがって見い。殊に夜な、きっと男と女とで、何かしら、演劇しばいにするようなことを遣っとるわ。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
銀六も健かに演劇しばい真似まねして、われはあわれなる鞠唄うたいつつ、しのぶとおどりなどしたりし折なり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
演劇しばい昨日きのう楽になって、座の中には、直ぐにつぎ興行の隣国へ、早く先乗さきのりをしたのが多い。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
演劇しばい昨日きのうらくに成つて、座の中には、直ぐに次興行つぎこうぎょう隣国りんごくへ、早く先乗さきのりをしたのが多い。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
世には演劇しばいの見物の幹事をして、それを縁に、俳優やくしゃ接吻キスする貴婦人もあると云うから。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中にはもう此処等ここいらから仮声こわいろをつかって壮佼わかものがある、浅黄あさぎ襦袢じゅばん膚脱はだぬいく女房がある、その演劇しばいの恐しさ。大江山おおえやまの段か何か知らず、とても町へは寄附よりつかれたものではない。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
演劇しばいのようだ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)