思召おぼしめし)” の例文
以て申上るに中納言綱條卿つなえだきやうは如何思召おぼしめしけん伊豆守はひかへさせよ越前守ばかり書院へ通せとの御意にて越前守を御廣おんひろ書院へ通し伊豆守殿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
病院に入切はいりきりで居ながら、いつの何時なんどきには、姉さんが誰と話をしたッて事、不残のこらず旦那様御存じなの、もう思召おぼしめしったらないんですからね。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長「左様……別段の御注文でしたから思召おぼしめしかなうように拵えましたので、思ったより手間がかゝりましたが……百両でうございます」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
是非来月で無ければ成らないと云う訳もありませんから、つま貴下あなたや市郎さんの思召おぼしめし次第で……妾の方は何方どちらでもよろしいのです。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『未だ聞かれずや、大臣殿(宗盛)の思召おぼしめしにて、主上しゆじやうを始め一門殘らず西國さいごくに落ちさせ給ふぞや、もしゆかりの人ならば跡より追ひつかれよ』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「かしこまりました。ありがたい思召おぼしめしでございます。工作の方のものどもはもう万一まんいち命令めいれいもあるかと柏林かしわばやし測量そくりょうにとりかかっております」
四又の百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そうすれば、あなたも私の目をかすめる必要がなくなって、正々堂々でしょう。どうせ矩を越えようなんて思召おぼしめしはないんですから
四十不惑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
神の思召おぼしめしだと云えばそれまでだが、もしそう云う御幣ごへいかつがずに考えて見ると、三分の二は僥倖ぎょうこうで生れたと云っても差支さしつかえない。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一日も早くくだんの悪僧を誅戮ちゅうりくなし、下々しもじもの難儀を救い取らせよとの有難い思召おぼしめしによって、はるばる身共を差遣さしつかわされた次第じゃ。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼さえ将軍とならば、上は朝廷の思召おぼしめしにも叶い、下は諸侯の望をも帰し、内は幕府の中心点を固うし、外は天下の威信をもつながんと思えり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
然し、全然まるまる蹈むのもさすがに不便ふびんとの思召おぼしめしを以つて、そこは何とか又色を着けて遣らうさ。まあまあ君達は安心してゐたまへ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
『でもまあ、何事も神様の思召おぼしめしでございましょう……仕方がございません。……でわたしは、どんな仕事をするのですか?』
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
しかし人間の世界を高き雲の上の国から見給う神の思召おぼしめしはどうあったのであろうか。神はミチミが法廷に送られる前に、天国へ召したもうた。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人の世はエホバの思召おぼしめし次第、罪の多い人間はその力ある審判さばきを待つよりほか為方しかたが無いけえ、私は芳は君に進ずるとまでは言うことは出来ん。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
かくに私は東京府から御払の地所を買請かいうけたまでの事なれば、府の命に服従するのみ、何か思召おぼしめしもあらば府庁へ御談おだんしかるべしとはね付ける。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そうかといって、別段、ウエトレスに思召おぼしめしがあったり、からかったりする訳ではない。まあ、下宿より何となく派手で、居心地がいいのだろう。
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「永年遠国えんごく罷在候夫まかりありそろおっとため、貞節を尽候趣聞召つくしそろおもむききこしめされ、厚き思召おぼしめしもっ褒美ほうびとして銀十枚下し置かる」と云う口上であった。
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)
去頃さるころより御老中ごろうじゅう水野越前守様みずのえちぜんのかみさま寛政かんせい御改革の御趣意をそのままに天下奢侈しゃしの悪弊を矯正きょうせいすべき有難き思召おぼしめしによりあまねく江戸町々へ御触おふれがあってから
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それには諏訪神社の思召おぼしめしにかなっている小供の身内の者が良いと云うことになって、為作が棟梁になって建築にかかった。
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
思召おぼしめしかたじけねえが、何んとか因縁をつけて、獨り者のあつしの部屋へ潜り込む女ですから、嬉しい相手ぢやありませんよ。
それにまたかみさまからも『折角せっかくであるから通信つうしんしたがよい』との思召おぼしめしでございますので、今回こんかいいよいよおもってお言葉ことばしたがうことにいたしました。
いといつてくださるおひとるもなし、浮氣うはきのやうに思召おぼしめしましようが其日そのひおくりでござんすといふ、いや左樣さうはさぬ相手あいてのないことはあるまい
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
県では尾白おじろ渓谷の御探勝を頻りに希望して、そこへ御歩をげさせ給うよう再三の願であったが、正午迄には台ヶ原の御休息所へ御到着の思召おぼしめしに加えて
それだのに悪魔どもがこの大戦争を始めましたおかげで、せつかくの神様の思召おぼしめし無駄むだになつて、そんなものは皆踏みにじられ焼き枯らされてしまひました。
悪魔の尾 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
父上の思召おぼしめしはどうあろうと、息子の方では勝手にそう決め込んで、もはや直接君公に御目通りしていますよ。
牛人 (新字新仮名) / 中島敦(著)
天使が空を舞い、神の思召おぼしめしにより、翼が消え失せ、落下傘らっかさんのように世界中の処々方々に舞い降りるのです。
美男子と煙草 (新字新仮名) / 太宰治(著)
山門寺門の天台側からこの抗議があって見ると、仮令たとい法皇の思召おぼしめしでもそれを押し切る訳には行かなかった。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして皆さんの思召おぼしめしむくいる、というような巧なる事はうまく出来ませぬので、已むを得ず自分の方のはたけのものをば、取りつくろいもしませんで無造作に持出しまして
もしこれをこの神の威霊を信ずる人たちに言わせたなら、或いはオシラ神の思召おぼしめしだと言うかもしれぬ。
何よりもまず家政のけいこに打ちかかり申したく何とぞ何とぞしからず思召おぼしめしのほど願い上げ参らせ候
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ワキモコガはマキムクノのなまり、纏向穴師まきむくのあなしは三輪の東にそばだつ高山で、大和北部の平野に近く、多分は朝家の思召おぼしめしもとづいて、この山にも一時国樔人の住んでいたのは
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
評判のある葺屋ふきや町の色小姓でさえ、主水の前へ出るとそでで顔をおおって恥らうというほどの美少年だったので、寵愛ちょうあいをうけて近習きんじゅに選ばれ擬作高ぎさくだか百石の思召おぼしめし料をもらった。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
上様の思召おぼしめしであり、御老中の評決とあらば、是非に及ばぬ事です。然し、そのかんに、何人なんぴとかの御一存で決着いたしましたものとすれば、正しい御政道とは申されませぬ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今後は思召おぼしめしかなうべきほど水をお使い下さい。その代りに、どうかあの石だけは、とりのけて頂きますといった。すると、大井子は夜の間にその石を引きのけてしまった。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
但し上山草人かみやまそうじんの正妻であった山川浦路やまかわうらじの妹で、後に女優になって夭折ようせつした上山珊瑚かみやまさんご、——彼女には大分思召おぼしめしがあったらしい。あるいはただの関係ではなかったかも知れない。
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「参りませう。さういふ思召おぼしめしでしたら、なに回想録なんか何時いつでもいゝ事なんですから。」
またあなたの判断までがそれと符合して居るというのは、実にこりゃ仏の思召おぼしめしがあるから、それにそむくとかえってあなたがわざわいを招く基になる。早くお帰りなさるがよかろう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
いずれも一代の見識として推賞すべき文字であった……若年ながら達人の風格をもたれていたためか、獄吏たちも一様に敬服し、また格別の思召おぼしめしを以て在獄中は充分に礼が尽されていた
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
十六歳で見出された下田歌子しもだうたこ女史、岸田俊子きしだとしこ湘煙しょうえん)女史があり、女学の道を広めさせられた思召おぼしめしは、やがて女子に稀な天才が現われるときになって、御余徳おんよとくがしのばれることであろう。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
諸商人かの妓を気の毒がり、一日商主に城中第一の名代女の情に逆らうは不穏当と忠告すると、商主誠に思召おぼしめしありがたきも昨夜夢に交通を遂げた。この上何ぞ親しくまみゆるを要せんと語る。
お手におもちなさった一と房の花の上へかかるのを、たしかに見た事があるんですが、これをおもえば、徳蔵おじの実貞じっていな処を愛して、深い思召おぼしめしのある事をおおせにでもなったものと見えます。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
明治大帝の御沙汰書ごさたしょ且つ金弊を賜わり、今上陛下は東宮にいらせられる当時、この学校の教授及び実験を親しくご覧になったという有難き学事奨励の思召おぼしめしがこの大学を盛んならしめた本源である。
早稲田大学の教旨 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
今夜、この家で大殺陣おおたてが展開される、これは神様の思召おぼしめしによるのだそうで、海老塚さんの魂も、今夜はこの家へくるそうで、もう今じぶん、どこか、このへんの隅に詰めているかも知れませんよ。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
皇儲の思召おぼしめしにより岡の来診の時会談して診察に立ち会うともあります。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「天できめられたことだ。その思召おぼしめしを大事にしなければいけない。」
何卒なにとぞ々々しからず御思召おぼしめしくだされたく候——
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
思召おぼしめしだが、わたしには
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
いたしたいと云うような場合におきましては……でごわりまする……その辺はいかがお計らいなされまする思召おぼしめしでごわりまするな。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あれは御案内の水街道の麹屋に奉公致した酌取女しゃくとりおんなの隅なるものに先生思召おぼしめしがあったのでげすな、前に惚れていらしったのでげすな貴方
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これは小生わたくしの父が、眼前まのあたりに見届けたとは申しかねるが、直接にその本人から聞取った一種の怪談で今はむかし文久の頃の事。その思召おぼしめしで御覧を願う。
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)