小草おぐさ)” の例文
小草おぐさ数本すほんに、その一本を伝わってさかしま這降はいおりる蟻に、去年の枯草かれぐさのこれがかたみとも見えるあくた一摘ひとつまみほど——これが其時の眼中の小天地さ。
小さいふごにそれを入れて、川柳の細い枝を折取って跳出はねださぬように押え蔽った少年は、その手を小草おぐさでふきながら予の方を見て
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
が、じっみつめて立つと、きぬの模様の白い花、撫子のおもかげも、一目の時より際立って、伏隠ふしかくれたはだの色の、小草おぐさからんで乱れた有様。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小草おぐさの二三寸延びた蔭または蚊帳草かやつりぐさの間などから、たおやめの書いた仮名文字ののしという恰好かっこう
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
こうしてひびき高い詩句や、あるいは夕暮ゆうぐれの美しいながめによって、あるいは涙が、あるいは哀愁あいしゅうがそそられるにしても、その涙や哀愁のすきから、さながら春の小草おぐさのように
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
実をつけてかなしきほど小草おぐさかな
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
やがて風説うわさ遠退とおのいて、若菜家は格子先のその空地に生える小草おぐさに名をのみとどめたが、二階づくりの意気に出来て、ただの住居すまいには割に手広い。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、やがて娘はみち——路といっても人の足のむ分だけを残して両方からは小草おぐさうずめている糸筋いとすじほどの路へ出て、そのせまい路を源三と一緒いっしょに仲好く肩をならべて去った。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
小草おぐさの上を柔らかに撫でて往く春風のごとく、聞ゆるものを,その優しい姿が前に坐ッて、その美しい目が自分を見て、そして自分を慰めているものを,ああ何として泣かれよう。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
し一つ頭を捻向ねじむけて四下そこら光景ようすを視てやろう。それには丁度先刻さっきしがた眼を覚して例の小草おぐささかしま這降はいおりる蟻を視た時、起揚おきあがろうとして仰向あおむけけて、伏臥うつぶしにはならなかったから、勝手がい。
露の玉いだき隠せる小草おぐさかな
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そっと、下へかがむようにしてその御神燈をみまわすと、ほか小草おぐさの影は無い、染次、と記した一葉ひとはのみ。で、それさえ、もと居たらしい芸妓げいしゃの上へ貼紙はりがみをしたのに記してあった。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浜砂にはかなき夢の小草おぐさかな
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
彼処かしこに、尾花が十穂とほばかり、例のおなじようなげた丘の腹に、小草おぐさもないのに、すっきりと一輪咲いて、丈も高くつぼみさえある……その竜胆を、島田髷のその振袖、繻珍しゅちんの帯を矢の字にしたのが