おんな)” の例文
撫でての歎息顔『茶などは要らぬ、止しにせい。たしか太田のおんなとやらが、毎晩泊りに来るとか聞いたが、それは今夜も来てゐるか』
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
病める老人としよりの用しげくおんなを呼ばるるゆえ、しいて「わたくしがいたしましょう」と引き取ってなれぬこととて意に満たぬことあれば
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「いずれにしても、おんなどもの知ったことではない。こちらはお蓮様どころではないのだ。お末の者一同、さわがずと早くやすめと申せ」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と急がわしくすずりを引き寄せ、手早くしたためたる電信三通、おんなを呼び立ててすぐにと鞭打むちうたぬばかりに追いやり、煙管きせるも取らず茶も飲まず
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
おんなは元数寄屋町の有松屋に奉公していたのを、お美代が旦那を持ってから自分の手許てもとに呼んで、昔話をするのをたのしみに致して居ります。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
脇本陣楢屋の奥の座敷では、冬次郎が熊太郎を相手にし、わざとおんなの酌をことわり、勘助や清三郎に酌をさせ、酒汲み交わし話していた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
異様な覆面姿の五人を見眺みながめて、宿のおんなたちがさえぎろうとしたのを、刺客たちは、物をも言わずに、どやどやと土足のまま駈けあがった。
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
橋本のいさちゃんが、浜田のばあさんに連れられ、高島田たかしまだ紋付もんつき、真白にって、婚礼こんれい挨拶あいさつに来たそうだ。うつくしゅうござんした、とおんなが云う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なか這入はいッて見ると大違い、もっとも客も相応にあッたが、給事のおんなが不慣れなので迷惑まごつく程には手が廻わらず、帳場でも間違えれば出し物もおくれる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それらの人たちに、家内うちおんなたちや、子供たちも交えて、三十数名のものが、土間に蓆をしいてずらりと二列に並ぶ。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
封筒に収めて備中国新見町にいみまち横山兵蔵様と書いて、傍に置いて、じっとそれを見入った。この一通が運命の手だと思った。思いきっておんなを呼んで渡した。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
色は白いが顔の地のあれた廿二三のおんな衝当つきあたりの六畳へ燈を点けて、こちらへと云うに貞之進はついて這入ると、この家はごと間ごと瓦斯を用いてある
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
ときが知ってるのよ。あのおんなうちにいる時分よく風呂敷包を抱えて質屋へ使いに行った事があるんですって。それから近頃じゃ端書はがきさえ出せば、向うから品物を
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
より以上、びっくりしたのは、本丸の大台所に働いていた台所役人や、庖丁人ほうちょうにんやおしもおんなたちであったろう。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
葉子はなおもどうじなかった。そこにおんながはいって来たので話の腰が折られた。二人ふたりはしばらく黙っていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
……清葉が下階したへ下りて、……近所だからね、自分の内へ電話を掛けて、おんなにいいつけて、通りへ買いに遣った、タングステンが、やがて紙包みになって顕れて
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お吉のいぬを不審してどこへと問えば、どちらへかちょと行て来るとてお出でになりました、と何食わぬ顔でおんなの答え、口禁くちどめされてなりとは知らねば、おおそうか、よしよし
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おおマダム街の鄙唄ひなうた! おおオブセルヴァトアールの通路の鄙唄! おお夢みる兵士ら! 子供をもりしながらその姿を描いて楽しむかわいいおんなら! オデオンの拱廊きょうろうがなければ
遊ぼうと言うので、宿屋を出て、駅の裏手にあるという妓楼ぎろうに出掛けて行った。宿のおんなに教えられた家は、暗い路の、生籬いけがきに囲まれた、妓楼らしくもないうらぶれた一軒屋である。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
帰ってから、手をひいて行ったおんなの話で、二側ほど後に角太郎さんがいて、まるで喰いつきそうな凄い顔をしていたと言っていましたが、ひょっとすると、その講談から思いついて……
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「あ、親分、そんな事は、おんなにやらせておけばいいのに——危ないなアどうも」
茶と菓子とを運んだおんな昼食おひるのあと片付けを云いつけて、彼女はまた漠然たる思いの影を追った。遠くより来る哀悠が湖水の面にひたひたとさざなみを立てている。で側の小さい聖書をとり上げてみた。
湖水と彼等 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
音に聞く太田の呑竜どんりゅうさまへお詣りしました。門前町には茶屋、旅籠が軒を並べ、客をひくおんなの声はひなびております。広い境内けいだいはいま人が出盛りで、人むれの多くは鐘楼の方へかれてゆく様子です。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おせい様と磯五と、おんなたちが戸口まで送って出た。お駒ちゃんはいつになくしんみりしていて、おせい様にも丁寧に別れの挨拶をした。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
浪子は何事のあるぞと思いつつ、伯母と看護婦にたすけられて馬車を下れば、玄関にはおんなにランプとらして片岡子爵夫人たたずみたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
三十前後の顔はそれよりもけたるが、鋭き眼のうちに言われぬ愛敬あいきょうのあるを、客れたるおんなの一人は見つけ出して口々に友のなぶりものとなりぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
おんなたちは、目が高いと言っていいか、低いと言っていいか、主水之介をそれと看破みやぶって成田屋、おいらん、二人が取巻きの川涼みと思ったらしく
つまが叫んだ。南西からざァっと吹かけて来て、縁はたちまち川になった。妻とおんなあわてゝ書院の雨戸をくる。主人は障子、廊下の硝子窓がらすまどをしめてまわる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
旅籠のおんなや番頭たちは、この、紙帳蜘蛛の怪異に胆を奪われ、咳一つ立てず、手足を強張こわばらせ、呼吸いきを呑んでいた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
長い竹のはしでかき回して、ザブザブと水で洗って、それをざるに手で盛った。「お待ち遠さま」とおんなはそれを膳に載せて運んで来た。足の裏が黒かった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
衣紋えもんを直したと思うと、はらりと気早に立って、つくばったおんなの髪を、袂で払って、もう居ない。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おのれ覚えて居ろと天地に向ってく息に無念の炎が燃えるばかりなのを、今日は小歌さんは丸髷で居たと云いますから、失礼だと思って来ないのでしょうと取做とりなおんなの手前
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
と、姉さんかぶりのおんなが、すべての謎はそれで解けてしまうかのような顔をして言った。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
千筋ちすじ百筋ももすじ気は乱るとも夫おもうはただ一筋、ただ一筋の唐七糸帯からしゅっちんは、お屋敷奉公せし叔母が紀念かたみ大切だいじ秘蔵ひめたれど何かいとわん手放すを、と何やらかやらありたけ出しておんなに包ませ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何時もならおんなを呼び返して小言こごとをいって渡すところを、今の彼は黙って手に持ったまま、しばらく考えていた。彼はしまいにその針をぷつりと襖に立てた。そうしてまた細君の方へ向き直った。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いひかけて四辺あたりに気を配り、若きおんなの三四間後れたるに心を許し
磯馴松 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
朝飯をすましたおんなを兄の家へってから彼女は外に出てみた。
湖水と彼等 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
おんなの案内でもって八畳の間に通ります。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「長くいるおんなか」
おんなの呼び来たりて、お豊を抑留しつ。このひまにと武男はつとやぶを回りて、二三十歩足早に落ち延び、ほっと息つき
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
われわれに対する今後の対策をらしているものと察しられますが——ところで、わたしは、道場のおんなどもが噂をしているのを、ちょっと聞きましたので。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
廊下を通うおんなを呼び止めて、唄の主はたれと聞けば、顔を見ておかしく笑う。さては大方美しき人なるべし。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
秩父の代官河越三右衛門が、召使のおんなに濡衣を着せ官に訴えて逆磔さかさはりつけに懸けた所、昨夜婢の亡霊が窓を破って忍び入り、三右衛門を喰い殺したというのである。——
稚子法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
主人あるじは東に向い一拝して香をき、再拝して退さがった。妻がつゞいて再拝して香を焚き、三拝して退いた。七歳ななつの鶴子も焼香しょうこうした。最後におんなも香を焚いて、東を拝した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あなたは何性と突然だしぬけに小歌に問れて、貞之進は素より知らないことゆえ知らぬと云えば、歌ちゃんはとおんなが横合から口を入れると、儂は火なの、じゃア十八で九紫きゅうしだね、く分ってね
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
それから、下男やおんなたちまでがいっしょになって、「くずすのは惜しい」とか「そのまま飾物にしてもいい」とか、「これだけあったら何年もつかえるだろう」とか、口々にほめそやした。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
と若いおんなの黄いろい声がした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
おんなはもう起きてるのか」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「こらっ、おんなっ! 北廓ほっかくはいずれであるか、これからまいるぞ。案内をいたせっ。ははははは、愉快愉快」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おんなに案内され、薄暗い部屋から部屋、廊下から廊下へと、菊弥は歩いて行った。
鸚鵡蔵代首伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)