古今ここん)” の例文
われは現時文壇の趨勢を顧慮せず、国の東西を問はず時の古今ここんを論ぜず唯最もわれに近きものを求めてここにやすんぜんと欲するものなり。
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
またその内容ないよう古今ここんわたり、顕幽けんゆうまたがり、また部分ぶぶんは一般的ぱんてきまた部分ぶぶん個人的こじんてきった具合ぐあいに、随分ずいぶんまちまちにみだれてります。
当面は新約、三方は旧約の古跡に包まれたる此平原はおのづから是れ古今ここんの戦場、十字軍がサラヂンの為に大敗をとりたるも此処なりき。
「われわれ人間は、古今ここんを問はず、東西を問はず、架空かくうの幸福を得るために、みづから肉体を苦しめることを好むものである」と嘆息たんそくしてゐる。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
冷然として古今ここん帝王の権威を風馬牛ふうばぎゅうし得るものは自然のみであろう。自然の徳は高く塵界を超越して、対絶の平等観びょうどうかん無辺際むへんさいに樹立している。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
のちにうたはまにおいてその同じ桂の余木よぼくをもちいてらせられたのが、くだんの薬師やくし尊像そんぞうじゃとうけたまわっておる。ハイ、まことに古今ここん妙作みょうさく
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
僕はその時、三月十二日に、古今ここん書院主人橋本福松君が柹蔭山房をたづねた時に、赤彦君がこゑを挙げて泣いたといふことを思ひ出したのであつた。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
くらまさんとなす強情者がうじやうもの古今ここんまれなるこゝな大惡人め穀屋平兵衞を殺せしに相違さうゐ有まじサア申立よと問詰とひつめられしかども段右衞門あらぬていにて平兵衞を殺しかね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日本の外には亜細亜アジア諸国、西洋諸洲の歴史もほとんど無数にして、その間には古今ここん英雄豪傑ごうけつ事跡じせきを見るべし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
己は其の結果として、沙翁しゃおうの価値を疑うよりも、藝術家としての自分の素質を疑った。沙翁と云えば、古今ここん第一の大詩人として、世界に許された人物である。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
芭蕉は連句において宇宙を網羅し古今ここん翻弄ほんろうせんとしたるにも似ず、俳句には極めて卑怯ひきょうなりしなり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
葉居升しょうきょしょうの上書のずるに先だつこと九年、洪武元年十一月の事なりき、太祖宮中に大本堂たいほんどうというを建てたまい、古今ここんの図書をて、儒臣をして太子および諸王に教授せしめらる。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
中国白話小説「古今ここん小説」「警世通言けいせいつうげん」等の影響のもとに書かれた思想的な歴史小説。
雨月物語:04 解説 (新字新仮名) / 鵜月洋(著)
中国白話小説「古今ここん小説」「警世通言けいせいつうげん」等の影響のもとに書かれた思想的な歴史小説。
そこには甘蠅かんよう老師とて古今ここんむなしゅうする斯道しどうの大家がおられるはず。老師の技に比べれば、我々の射のごときはほとんど児戯じぎに類する。儞の師と頼むべきは、今は甘蠅師の外にあるまいと。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
自然児しぜんじとしてのほこりを感ずることもあったし、夕映えのけんらんたる色どりの空をあおいで、神の国をおもい、古今ここんを通じて流れるはるかな時間をわが短い生命にくらべて、涙することもあった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いわんやだらしのない人間が、だらしのない物を書いているのが古今ここんの文壇のヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
まつ古今ここんいろ
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寿陵余子じゆりようよし雑誌「人間にんげん」の為に、骨董羹こつとうかんを書く事既に三回。東西古今ここんの雑書を引いて、衒学げんがくの気焔を挙ぐる事、あたかもマクベス曲中の妖婆えうばなべに類せんとす。
寂寞じゃくまく古今ここんの春をつらぬいて、花をいとえば足を着くるに地なき小村こむらに、婆さんは幾年いくねんの昔からじゃらん、じゃらんを数え尽くして、今日こんにち白頭はくとうに至ったのだろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ことに政府の新陳しんちん変更へんこうするに当りて、前政府の士人等が自立のを失い、糊口ここうめに新政府に職をほうずるがごときは、世界古今ここん普通のだんにしてごうあやしむに足らず
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
一、自ら俳句をものする側に古今ここんの俳句を読む事はもっとも必要なり。かつものしかつ読む間には著き進歩を為すべし。己の句に並べて他人の名句を見る時は他人の意匠惨澹さんたんたる処を発見せん。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
また星野麦人ほしのばくじんをして『古今ここん俳句大観』四巻を編纂せしめき。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
彼が古今ここんに独歩する所以ゆゑんは、かう云ふ壮厳な矛盾むじゆんの中にある。Sainte-Beuve のモリエエル論を読んでゐたら、こんな事を書いた一節があつた。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ふるって驀地ばくちに進めとえたのみである。このむさくろしき兵士らは仏光国師の熱喝ねっかつきっした訳でもなかろうが驀地に進むと云う禅機ぜんきにおいて時宗と古今ここんそのいつにしている。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
是れ十六世紀の末葉、独人 Wierus が悪魔学に載する所、古今ここんを問はず、東西を論ぜず、魔界の消息を伝へて詳密なる、くの如きものはあらざるべし。
「好きって、いいじゃありませんか、古今ここんの傑作ですよ」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
金瓶梅きんぺいばい古今ここん無双の痴情小説たる所以ゆゑんは、一つにはこの点でも無遠慮に筆をふるつた結果なるべし。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ちなみに云ふ。「古今ここん実物語」は宝暦はうれき二年正月出板、土冏然とけいぜんの漢文の序あり。書肆しよしは大阪南本町一丁目村井喜太郎むらゐきたらう、「古今百物語」、「当世百物語」号と同年の出版なりしも一興ならん
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
実際また、女のミカドといふものは、古今ここんに少くはないのである。たしかに日本の女の位置は、家畜や奴隷のやうに売買されるにもかかはらず、存外ぞんぐわい辛抱しんばうの出来る点もないではないらしい。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
従つてマツチの商標は勿論もちろん、油壺でも、看板でも、乃至ないし古今ここんの名家の書画でも必死に集めてゐる諸君子くんしには敬意に近いものを感じてゐる。時には多少の嫌悪けんをまじへた驚嘆きやうたんに近いものを感じてゐる。
蒐書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
本阿弥ほんあみ折紙をりかみ古今ここんに変ず。羅曼ロマン派起つてシエクスピイアの名、四海に轟く事迅雷じんらいの如く、羅曼派亡んでユウゴオの作、八方にすたるる事霜葉さうえふに似たり。茫々たる流転るてんさう。目前は泡沫、身後しんごは夢幻。
しかし時の古今ここんを問はず
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)