初産ういざん)” の例文
夫婦は大層喜んだが、長野から請待しょうたいした産科のお医者が、これまで四十の初産ういざんは手掛けたことがないと云って、まゆひそめたそうである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
お庄はその着物を見ながら、げらげら笑い出した。三十にもなって、まだ初産ういざんのような騒ぎをしている叔母の様子がおかしかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
すこやかな初産ういざんを見て後、一しお血色を浄化され、ちょうどその年齢や肉体も女の開花を完全に示してきた風情である。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そりゃ、張って張って仕様がないから、目にちらつくほど待ったがね、いざ……となると初産ういざんです、きゅうの皮切も同じ事さ。どうにも勝手が分らない。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年歯としを取ってからの初産ういざんだったので、当人もはたのものも大分だいぶ心配した割に、それほどの危険もなく胎児を分娩ぶんべんしたが、その子はすぐ死んでしまった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
生死しようし分目わけめといふ初産ういざんに、西應寺さいおうじむすめがもとよりむかひのくるま、これは大晦日おほみそかとて遠慮ゑんりよのならぬものなり、いへのうちにはかねもあり、放蕩のらどのがてはる、こゝろは二つ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
にわとり初産ういざん肝腎かんじんで、ひな鶏冠とさか紅色あかみを増して来るとモー産み出す前ですから産卵箱というものを少し高い処へこしらえてらなければなりません。石油箱へわらを詰めれば沢山です。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
峰雪乃みねゆきのの墓です。これは初産ういざんに気の毒にも前置胎盤で亡くなりましたので……。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして時々心細い愚痴っぽい事を言っては余と美代を困らせる。妻はそのころもう身重になっていたので、この五月には初産ういざんという女の大難をひかえている。おまけに十九の大厄たいやくだと言う。
どんぐり (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「この犬は二歳位でしょう。初産ういざんでしょうよ。」
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
初産ういざんおくれますゆえのう」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
万事がそれだで私も欲しくはなかったけれど、いい気持はしなかった。それで初産ういざんの時、駕籠かごで家へ帰ったきり行かずにしまったというわけせえ。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
(お従弟いとこへ、渡してくれとは、一体、何かな)吉次は、しびれた足を、少しくずして、待っていた。そして、吉光御前の、初産ういざんの美を、そっと、まぶたで想像した。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしは亡くなった女房一人をたよりにして、寂しい生涯を送ったものだが、その女房が三十を越しての初産ういざんでお玉を生んで置いて、とうとうそれが病附やみつきで亡くなった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
去年ちょうど今時分、秋のはじめが初産ういざんで、お浜といえばいさごさえ、敷妙しきたえ一粒種ひとつぶだね
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ははさまに直様すぐさまお出下さるやう、今朝けさよりのお苦るしみに、潮時は午後、初産ういざんなれば旦那とり止めなくお騒ぎなされて、お老人としよりなき家なれば混雑お話しにならず、今が今お出でをとて
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ム、見ていてもいいが——賛之丞、お稲は、初産ういざんをしてから、よけいに美しくなって、それに、生んだ嬰児あかごは、てめえのつらに、そっくりだ。——たしかに斬れるか」
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はゝさまに直樣すぐさまいでくださるやう、今朝けさよりのおるしみに、潮時しほどき午後ごゞ初産ういざんなれば旦那だんなとりめなくおさわぎなされて、お老人としよりなきいゑなれば混雜こんざつはなしにならず、いまいまでをとて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
草に鼻筋の通った顔は、忘れもせぬ鶴谷の嫁、初産ういざんに世を去った御新姐ごしんぞである。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そんなことがあるもんですか。少しぐらい体が弱っていたって、私が大丈夫うまく産ませておあげ申しますから……それにあなたは初産ういざんじゃないのですからね。年取ってからの初産は少しつろうございますよ。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
後、静は捕われて鎌倉へ曳かれ、鶴ヶ岡神前の舞で気を吐くが、そのときすでに妊娠みごもっており、十ヵ月目に初産ういざんする。頼朝は命じて、その子を、由比ヶ浜に投げ捨てさせる。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お可哀相に、初産ういざんで、その晩、のう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女性の美は初産ういざんに高調するというが、吉光御前のこのごろのやつれあがりのおもざしや、姿は、真夏を越えた秋草の花のように、しなやかで、清楚せいそで、常に見なれている二人にも、そのろうやかさが
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初産ういざんだし早目でもあったせいか、ふつうの嬰児あかごより小さかった。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、妻の卯木は、初産ういざんした。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)