切株きりかぶ)” の例文
木が無くなった森の跡は、ちょうど墓場はかばのようでした。大きな木の切株きりかぶは、石塔せきとうのように見えました。王子はその中を飛んでゆかれました。
お月様の唄 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そこの松の切株きりかぶの上に立っていたひとりの武芸者ぶげいしゃは、いななく馬の声をきくと、弓を小わきに持ってヒラリと飛びおりてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雄二が腰をおろした切株きりかぶそばに、ふと一枚の紅葉もみじの葉が空から舞って降りてきました。雄二はそれをひろいとると、ポケットに収めておきました。
誕生日 (新字新仮名) / 原民喜(著)
堤坊どてうへのあのやなぎ切株きりかぶこしをかけてさるのひかへづなにぎつたなり、俯向うつむいて、ちひさくなつて、かた呼吸いきをしてたのがその猿廻さるまはしのぢいさんであつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とうとうこらえきれなくなって、わたくしはいつしか切株きりかぶからはなれ、あたかも磁石じしゃくかれる鉄片てつきれのように、一良人おっとほうへとちかづいたのでございます……。
土間にころがしてある切株きりかぶに腰をかけて、彼は黙って表の闇を睨んでいると、おもよは湯を汲んで来てくれた。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ルピック氏、兄貴のフェリックス、姉のエルネスチイヌ、それと、にんじん、この四人は、根のついた切株きりかぶが燃えている暖炉だんろかたわらで、寝るまでの時間を過ごす。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
夕方屋敷の南端にあるけやき切株きりかぶに上って眺める。日は何時いつしか甲州の山に落ちて、山は紫ににおうて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その瞬間私は、肉體的に、の火焔と輝きに曝された木の切株きりかぶのやうに無力になるのを感じた。
「あっはっは。おかしなはなしだ。九十八の足さきというのは、九十八の切株きりかぶだろう。それがどうしたというんだ。おれはちゃんと、山主の藤助とうすけに酒を二しょう買ってあるんだ。」
かしわばやしの夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
僕は自然と云うものだけには信頼を置くんです。ねえ、あの切株きりかぶこしを下して、もう少し色々なことを饒舌しゃべり合いましょうよ。鴉が鳴くまでです。出発はそれからでも充分間に合いますよ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
見ると、咲耶子さくやこがただひとり、社前しゃぜん大楠おおくすのき切株きりかぶにつっ立ち、例の横笛を口にあてて、もさわやかに吹いているのだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうおもって、一退しりぞいて見直みなおしますと、良人おっと矢張やはもととおりはっきりした姿すがたで、切株きりかぶこしかけてるのです。
相模国さがみのくに石橋山いしばしやまの古戦場に近き杉山の一部。うしろに小高き山を負いて、その裾の低地に藁葺わらぶきの炭焼小屋。家内は土間にて、まん中にを切り、切株きりかぶ又は石などの腰かけ三脚ほどあり。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
昼間は、社殿の床の下にもぐりこみ、古むしろを敷いた上に、木の切株きりかぶを枕にして、うとうと昼寝をしました。社殿の床は高くて日陰で、涼しい風が吹き込んできて、いい気持ちでした。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
たゞ、しいかななかまる大樹たいじゆ枝垂櫻しだれざくらがもうえぬ。新館しんくわん新潮社しんてうしやしたに、吉田屋よしだや料理店れうりてんがある。丁度ちやうどあのまへあたり——其後そのご晝間ひるまとほつたとき切株きりかぶばかり、のこつたやうにた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
金吾は前後の木立を見廻して、万太郎に切株きりかぶの根を床几しょうぎにすすめ、自分は土へじかに膝行袴たっつけの腰をおろしました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私達わたくしたちは三じゃくほどへだてて、みぎひだりならんでいる、切株きりかぶこしをおろしました。そこは監督かんとく神様達かみさまたちもおをきかせて、あちらをいて、素知そしらぬかおをしてられました。
ともこゝろがうにして、小夜さよほたるひかりあかるく、うめ切株きりかぶなめらかなる青苔せいたいつゆてらして、えて、背戸せどやぶにさら/\とものの歩行ある氣勢けはひするをもおそれねど、われあめなやみしとき朽木くちきゆる
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
古木の切株きりかぶに腰かけて、われながら痩せたと思う膝をかかえた相良金吾は、どういう縁でか、こうも自分をいとしんでくれる釘勘のことばにいよいよおもてを上げ得ません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蛇籠ぢやかごうへの、石垣いしがきなかほどで、うへ堤防どてにはやなぎ切株きりかぶがあるところ
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一つの切株きりかぶちりをはらって、六部ろくぶはわきへ片膝かたひざをついた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)