おも)” の例文
金田氏はもと刀剣の鞘師さやしでありましたが、後牙彫商になって浅草向柳原むこうやなぎわらに店を持っている貿易商人で、おもに上等品を取り扱っているので
しかしおもなものや特色あるものは、ほぼ示しましたから、これで日本の手工藝の現状をあらまし知ることは出来るでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
かういふことは、彼女だけの祕密であること、また彼女の知つてゐることといつても、おも推測すゐそくにすぎないことなどを誓ふのであつた。
わたしたちはカピが一座いちざおもな役者で、そのうえ天才であることを説明せつめいして、なんによらずだいじにあつかっているのだと言い聞かした。
これは祖先以来の出入先で、本郷五丁目の加賀中将家、桜田堀通の上杉侍従家、桜田かすみせきの松平少将家の三家がそのおもなるものであった。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
金兵衛は白山前町はくさんまえまちに店を持っていて、道具屋といってもおもよろい兜や刀剣、槍、弓の武具を取扱っているので、邦原家へも出入りをしている。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おもにどんなことを考へていらつしやるのか、あの頭の中でどんなことが目論まれてゐるのか、それがひとつ知りたいものだて。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
狹衣子さごろもし手傳てつだひにては、つい、しや時間じかんわすれたことや、佛骨子ぶつこつしあななか午睡ひるねをしたことや、これ奇談きだんおもなるもの。
そこへオランダ代理公使ブロックと同国書記官クラインケエスも落ち合って見ると、公使一行のおもなものは都合六人となった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
別に二人のおもだった土人が場所がないのでわれわれにくっついて寝た。そのためわれわれは旅行よりは泊まることによって一層くたびれた。
むろん例外れいがいはありましょうが、現在げんざいでは数百年前すうひゃくねんぜん乃至ないしねん二千ねんぜん帰幽きゆうした人霊じんれいが、守護霊しゅごれいとしておもはたらいているように見受みうけられます。
しかしこれはおもに江戸の芸術であり、風俗である。京阪けいはん移殖いしょくの美人型が、ようやく、江戸根生ねおいの個性あるものとなったのだった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
事の意外に出でたる驚、ことばに現すべからざる痛、負心ふしんの人に對する忿いかり、皆明かに觀る人の心に印せられき。ヂドは今おもなる單吟アリアに入りぬ。
野蛮人の絵画、太古の絵画も線におもきを置いている。近代フランスの野蛮人もまた線へ立ち戻る事に努力したようである。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
このマイダスという王様は、世の中の他の何よりもきんが好きでした。彼が自分の王冠を大切に思うのも、おもにそれが金で出来ているからでした。
また骨角器以外こつかくきいがい貝殼かひがらつくつた器物きぶつもないではありませんが、それはおも裝飾そうしよくもちひられたもので、なかでも一番いちばんおほいものはかひ腕輪うでわであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
それからその後に出て来るその中のおもだった者と思えるような人に対してまたその事を願いましたところが、どうも今承諾する訳にはいかない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
和歌はその調べが俳句とは違って幽玄な思想であるように響いて来る、しかしその幽玄と感ずるところは歌の形体から来る感じがおもなものである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
おもだった警官が、命令するようにさけびました。五人の警官が、ピストルの銃口をそろえて、ねらいをさだめました。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『そうばかりも成りますまい、彼奴等きゃつらは、あわよくば、大石殿を初め、同腹のおもなる者を、闇討ちしてしまおうという企みさえ抱いて居りますのに』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たいてい司教会員である司教書記を毎日引見し、また管轄のおもな助任司祭をほとんど毎日引見しなければならない。
日本につぽんける地震學ぢしんがくのこれまでの發達はつたつおも人命じんめい財産ざいさんかんする方面ほうめん研究けんきゆうであつた。しかるに最近さいきん二十年にじゆうねんあひだ歐米おうべいける地震學ぢしんがく方面ほうめん發達はつたつした。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
二人は明らかに喧嘩けんかをしていた。その喧嘩の渦中かちゅうには、知らないに、自分が引き込まれていた。あるいは自分がこの喧嘩のおもな原因かも分らなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其のおもなるものは、弘治元年七月十九日犀川さいがわ河畔の戦闘と永禄四年九月十日の川中島合戦との二回だけである。
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
支那しなで昔から行なわれた肉刑にくけいおもなるものとして、けい(はなきる)、(あしきる)、きゅう、の四つがある。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかしさっきも云う通り、おもに話したのは未来にかく絵の事だ。それは是非話さなくてはならなかったからな。
かたなの手品だけに見物人は男がおも、女子供は数えるほどしかいない中に、こわらしい浪人頭がチラホラ見える。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
前条には信念と題しておもに虎を神また使い物として崇拝する事を述べたが、ここには民俗てふ広い名の下に虎に係る俗信、俗説、俗習を手当り次第べよう。
柱の状挿じょうさしには、おもに東京から入って来る手紙や電報が、おびだたしくはさまれてあった。米屋町の旦那のような風をしたその主人を、お島は不思議そうに眺めていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ガラン教授から一世紀ののち——即ち一八〇〇年以後のおもなる訳者を列挙して見ると、大体しもの通りである。
私は娼婦の発生したおもな原因を以上のように推定する。即ち男子の性欲の過剰と好新欲とが第一因となり、女の経済的無力が第二因となって発生したのである。
私娼の撲滅について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
かういふふうおな緑色みどりいろなかにちがひがあるのは、なぜかといふと、これは、おも細胞内さいぼうないふくまれてゐる、緑色素りよくしよくそといふもののあはさによるものです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
そしてそれを珍重がっていた。虎やんまは往来を低く飛んできて、たちまちのうちにもち竿ざおの陣を突破してしまう。虎やんまの出るのはおもに日盛りの時分である。
アナミツの方は、使ふとるもんがおもですけツどんが、あん人達にやあん人達の世間ていふもんがあつて、やれなんのかんのて、それ相当にごたごたがあツとですな。
牛山ホテル(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
支那の松は全く別種です。赤松はどこでも山や野に見られますが黒松はおもに海岸方面に生えています。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
わたくしに、江戸では、おもにどのような方々の御贔屓ごひいきになっているか——なぞ、お尋ねでありますゆえ、ここぞとばかり、口幅ったくも、お名前を申し上げました。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「いえな、内じゃ芸妓屋げいこやさんへ出前ばかりがおもですから、ごらんの通りゆっくりじゃえな。ほんにお師匠さんいお声ですな。なあ、良人あんた。」と、横顔で亭主を流眄ながしめ
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あなたがたがこのうたからけるかんじは、たしかにさうした方面ほうめんおもなのだとかんがへてもらはねばなりません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
先刻さっきの冒険の」と助役が言いました。「一番おもだった僕の目的と言うのは、始めからこいつにあったのさ。もっともこんな煎餅を手に入れようとは思わなかったがね。 ...
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
広告のき札や名刺がおもで、時には郡役所警察署の簡単な報告などを頼まれてることもあるが、それはきわめてまれであった、棚に並べたケースの活字も少なかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
私の父は彫金師ほりものしだった。しかし、おもにゴム人形だとか石鹸せっけんなどの原型を彫刻していた。父がいつも二三人の弟子でしを相手に仕事をしている細工場へ私は好んで遊びに行った。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
で、小説のるいあま寄稿者きかうしやが無かつたので、おも山田やまだ石橋いしばしわたしとのをせたのです、三人さんにん以外いぐわい丸岡九華まるおかきうくわふ人がありました、この人は小説も書けば新躰詩しんたいしも作る
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わしたまやりるは、ひめかほようがためでもあるが、それよりもひめけたたふと指輪ゆびわある大切たいせつよう使つかはうため取外とりはづしてるのがおも目的もくてきぢゃによって、はやね。
おもだった星座を暗記していれば素人しろうとでも新星を発見し得る機会チャンスはあるという事も話した。
小さな出来事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そんな次第で日本の古代では農民がおもになっておりまして、農民以外の者は公民おおみたからではない。「たみ」ではない。百姓すなわち人民の仲間に加わらないから、これを「非人ひにん」と申す。
左大臣家にいるあおい夫人(この人のことをおもにして書かれた巻の名を用いて書く)
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「ノートだって僕がおもに稼いだんだけれども、席次は吉川君の方がグッと好いんだ。一つは試験運もあるだろうけれど、一緒にやるなら自分が徳をしようと思っているんだから敵わない」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
少い暇に読む書物も、それから考へることもさういふことがおもになつてゐた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
それで不取敢とりあへず離室はなれの八畳間を吉野のへやに充てて、自分は母屋の奥座敷に机を移した。吉野と兄の室の掃除は、下女の手伝もなくおもに静子がする。兎角、若い女は若い男の用を足すのが嬉しいもので。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
抱き合うばかりでも、世の中のおもたのしみの一つです。