いな)” の例文
川に群れてるいなにも脂がのってくる、鯔の食える季節は、山に初茸の出る時期の間だけだと、そんなことを話してきかした。
初秋海浜記 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
獲ものゝ魚はいなであることは、この魚特有の精力的ななまぐさいにおいが近づくまえに鼻をうつので知られました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
美妙はいなの背のように光ったベラベラ着物に角帯かくおびをキチンと締め、イツでも頭髪あたまを奇麗に分けて安香水やすこうすいの匂いをさしていたが、紅葉はくすんだ光らない着物に絞りの兵児帯へこおびをグルグル巻いて
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「マア一口……。」と言って、初手しょてに甘ッたるい屠蘇とそを飲まされた。それから黒塗りの膳が運ばれた。膳には仕出し屋から取ったらしい赤い刺身や椀や、いなの塩焼きなどがならべてあった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
こどものとき小学校へ送り迎えをして呉れたり、わたくしの好きないなのおへそを焼いて呉れたり、母がわたくしを乞食のすえと罵るのを庇って呉れたり、想い出せば親切だったと思うことも沢山あります。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)