饒津にぎつ)” の例文
饒津にぎつ公園を過ぎて、東練兵場の焼野が見え、小高いところに東照宮の石の階段が、何かぞっとする悪夢の断片のようにひらめいて見えた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
馬車は次兄の一家族と私と妹を乗せて、東照宮下から饒津にぎつへ出た。馬車が白島から泉邸入口の方へ来掛った時のことである。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それにしても、あの日、饒津にぎつ河原かわらや、泉邸の川岸で死狂っていた人間達は、——この静かなながめにひきかえて、あの焼跡は一体いまどうなっているのだろう。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
夢中で橋を渡ると、饒津にぎつ公園裏の土手を廻り、いつの間にか彼は牛田うした方面へ向う堤まで来ていた。この頃、漸く正三は彼のすぐ周囲をぞろぞろとひしめいている人の群に気づいていた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それから、饒津にぎつ公園の方を廻って家に戻ったのであるが、その日も、その翌日も、私のポケットは線香のにおいがしみこんでいた。原子爆弾に襲われたのは、その翌々日のことであった。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
……電気休みの日、彼は妻の墓を訪れ、そのついでに饒津にぎつ公園の方を歩いてみた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
栄橋を渡ってしまうと、とにかくほっとして足どりも少しゆるくなる。鉄道の踏切を越え、饒津にぎつの堤に出ると、正三は背負っていた姪を叢に下ろす。川の水は仄白ほのじろく、杉の大木は黒い影を路に投げている。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)