顔貌がんぼう)” の例文
旧字:顏貌
その顔貌がんぼうは接近してる主人たちのとおりに仕上げられる。愚昧ぐまいな者の飼ってる猫は、怜悧な者の飼ってる猫と同じ眼つきではない。
そして剃刀かみそり仮髪かつらとさえあれば人間の顔貌がんぼうは変えられると云うことを考え合せると、私はその二人が同じ人間であると疑わざるを得なかったのです。
そしてマリユスは、そういう際におけるその崇高な幽鬱ゆううつ顔貌がんぼうに対して、自ら驚嘆を禁じ得なかった。
自分がいかにも病人らしい悪い顔貌がんぼうをして歩いているということを思い知らされたあげく、あんな重苦しい目をしたかと思うと半分は腹立たしくなりながら、病室へ帰ると匇々そうそう
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
母なる女神の超人間的な顔貌がんぼうが——現今の生者より以前にも存在し、以後にも存在し、ピザンティン式のマドンナに似て
画面のおもなる線はここに至って決定する。そして今や全体の顔貌がんぼう模糊もこたるあけぼのから浮き出す。すべてが明確になる、色彩の調和も形貌の輪郭も。
枕の上に仰向あおむけに投げ出されて、首のまわりをしめつけてくる獰猛どうもうな圧縮に息をつまらしてる顔……刻々に落ちくぼんでゆく顔貌がんぼう……ポンプにでも吸われるように
二人とも——彼女はその慧敏けいびんさによって、彼は知能の代わりとなってる本能によって——等しく相手を見誤っていた。クリストフは、彼女の顔貌がんぼうなぞと頭脳生活の強烈さとに蠱惑こわくされていた。
しかし人の顔貌がんぼうや魂のその音楽も客間の中においては、音楽家の音楽と同じく、無味乾燥で変化に乏しいものと言わなければならない。各人が自分の風格をもっていて、その中に凝結している。
そういう少年の域をはるかに脱しているのだ。それは表皮にすぎない、一時の顔貌がんぼうにすぎない。それは彼の本体ではない。彼の深い本体と、彼の顔や思想の現形との間には、なんらの関係も存しない。