韻事いんじ)” の例文
茶の湯・香道などの風流韻事いんじにあそぶことをしないで、一室にたくさんの金貨を敷きならべて、それをみて心をなぐさめるというふうで
濃くあまく、湯加減ゆかげんに出た、重い露を、舌の先へ一しずくずつ落してあじわって見るのは閑人適意かんじんてきい韻事いんじである。普通の人は茶を飲むものと心得ているが、あれは間違だ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
凡下ぼんげや一般の庶民は別として、公家堂上家の生活は風流韻事いんじに耽けるか、仏教の信仰にうちこむか、いずれにしてもスタイルが万事を支配する形式主義の時代だったが、そういうなかにあって
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
当時、乱世の武将でも歌道の心得のある者が少くなかったとは云え、それは育ちのよい大名の子弟たちのことで、一般の武士は文字に暗かったから、まして風流韻事いんじを楽しむ者などは稀であった。