静寂しづか)” の例文
旧字:靜寂
壁は壁紙で張りつめて、それがすゝけて茶色になつて居た。粗造な床の間、紙表具の軸、外には古びた火鉢が置いてあるばかりで、何となく世離れた、静寂しづかな僧坊であつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
……水鶏くひなはしるか、さら/\と、ソレまた小溝こみぞうごく。……うごきながら静寂しづかさ。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
斯ういふ静寂しづかな、世離れたところに立つて、其人のことをおもひ浮べて見ると、丁度古蹟を飾る花草のやうな気がする。丑松は、血の湧く思を抱き乍ら、円い柱と柱との間を往つたり来たりした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あゝ、精舎の静寂しづかさ——丁度其は古蹟の内を歩むと同じやうな心地こゝろもちがする。まるい塗柱に懸かる時計の針の刻々をきざむより外には、の高く暗い天井の下に、一つとして音のするものは無かつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)