鍔広つばひろ)” の例文
旧字:鍔廣
ボンネットとやらいう鍔広つばひろの花帽子をかぶり、ラム酒の匂いをプンプンさせながら、艶かしく全身を屈らせて圓朝を迎えると
円朝花火 (新字新仮名) / 正岡容(著)
鍔広つばひろなる藍鼠あゐねずみ中折帽なかをれぼう前斜まへのめりかむれる男は、例のおもてを見せざらんと為れど、かの客なり。引連れたる女は、二十歳はたちを二つ三つも越したるし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
男は鍔広つばひろ帽子を眼深にかぶり上衣の襟を深く立てて、女は長い睫毛の真黒な眼だけを残してすっぽりと被衣かっぱを被っている。二人共如何にも世を忍ぶ風情である。
薔薇の女 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
いびつな頤は見えるけれど、いびつである筈の頭蓋は茶色の鍔広つばひろの中折帽子のために見えない。
断層顔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それはさう大して好いといふほどではないが、ところどころに岩石があつて、その上で新しい鍔広つばひろの麦稈帽を日にかゞやかしつゝ避暑客が鮎を釣つてゐるのがそれとゆびさされた。
浴室 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
男は白い幅濶はばひろの襟をつけた服を着て、ステッキをついた左の手に鍔広つばひろのピュリタン帽を持つ右の手を重ね、女は雪白せっぱくのエプロンをかけて、半頭巾ボンネットを冠り、右の手は男の腕にすが
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)