迂遠うゑん)” の例文
さういふところよんどころなくすて置いていつか分る時もあらうと茫然ばうぜん迂遠うゑんな区域にとどおいて、別段くるしみもいたしませんかつた。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
たゞ予習復習の奮励が教室でめき/\と眼に立つ成績を挙げるのを楽しみにした。よし頭脳が明晰めいせきでないため迂遠うゑんな答へ方であつても、答へそのものの心髄は必ず的中した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
何んの詮索もしなかつたのは迂遠うゑんで、その後夜毎の火事にしても、江戸の諸方から一度に火の手の擧がる樣子は、どう考へても、多勢の者が連絡して、八方から火を放つとしか思はれず
「だつて見たかつて云へば、見合ひぢやないか。君のムツタアも亦、迂遠うゑんだな。見せる心算つもりなら、前へ坐らせりや好いのに。後にゐるものが見える位なら、こんな二十銭の弁当なんぞ食つてゐやしない。」
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
錢形の平次もまことに迂遠うゑん千萬、此時漸く氣が付いて、女が置いて行つた包を開いて見ると、中からは小判が三百兩、切餅の封も切らず、盜られた時のまんま、そつくり入つて居たのです。