はし)” の例文
『人間はかうして生存してるのだ。かうして現在から現在をはしつて、無意味のうちに生れて、生きて、で、そして死んで行くのだ』
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
尚且つ森田の許へはしらずに居られないといふ心持ちや、その事の是非善悪などは、私は充分理解したり、判断したりする力を持つてゐなかつたが
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
いぬしたい、人は色にはしる。狗と人とはこの点においてもっとも鋭敏な動物である。紫衣しいと云い、黄袍こうほうと云い、青衿せいきんと云う。皆人を呼び寄せるの道具に過ぎぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あん子は表通りまで一呼吸いきに走つて出て、町すぢを眼ではしつてみたものの、砂地の白く續いた果には、おほかたの店もしまひかけ、人通りは吹き消したやうに絶えてゐた。
神のない子 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)