角田川すみだがは)” の例文
もう彼是かれこれ三十年ばかり昔の事だ。私が始めて、江戸へ下つた時に、たしか吉原のかへりだつたと思ふが、太鼓を二人ばかりつれて、角田川すみだがはの渡しを渡つた事がある。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
延寿太夫はその席上で、『角田川すみだがは』を語つた。清元としてはひどく上品なもので、何も判らない聴衆きゝていづれも手をつて喜んでゐたが、自分はひとあざむかれたやうな気持がしない事もなかつた。
従つて、私が持つて居る愛惜も(もしさう云ふものがあるとすれば)全く同じやうなものである。私は右の耳に江戸清掻えどすががきのを聞き、左の耳に角田川すみだがはの水の音を聞いてゐるやうな心もちがした。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)