藪柑子やぶこうじ)” の例文
殊に近頃は見越しの松に雪よけの縄がかかったり、玄関の前に敷いた枯れ松葉に藪柑子やぶこうじの実が赤らんだり、一層風流に見えるのだった。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「……寿限無寿限無五こうのすり切れ、海砂利水魚の水行末すいぎょばつ雲来末うんばつ風来末ふうらいばつ、食う寝る所の住む所、やぶら小路藪柑子やぶこうじ……」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
貝細工のような福寿草よりも、せせこましい枝ぶりをしたはちの梅よりも、私は、わらで束ねた藪柑子やぶこうじの輝く色彩をまたなく美しいものと思った。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
山橘は藪柑子やぶこうじで赤い実が成るので赤玉ともいっている。一首は、この大雪が少くなった残雪のころにみんなして行こう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
藪柑子やぶこうじ先生「伊太利人」と申す名作を送り候。木曜に御出なければ締切に間に合うよう取りに御寄こしか、此方より御送致す事に致候。小生演説は明日位から取りかかる考に候。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
それはどこかの山から取って来た熊笹くまざさだか藪柑子やぶこうじだかといっしょに偶然くっついて運ばれて来た小さな芽ばえがだんだんに自然に生長したものである。
庭の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)