肩摩轂撃けんまこくげき)” の例文
三囲みめぐりから白鬚しらひげ、遠くは木母寺もくぼじまで肩摩轂撃けんまこくげき、土手際にはよしず張りの茶店、くわいの串ざしや、きぬかつぎを売り物に赤前垂が客を呼ぶ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
今日不忍池の周囲は肩摩轂撃けんまこくげきの地となったので、散歩の書生が薄暮池に睡る水禽を盗み捕えることなどは殆ど事実でないような思いがする。
上野 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
各エレベーターはことごとく満員で、そのエレベーターが吐き出す人数は、下の十字路を通る群衆の中になだれ込んで、肩摩轂撃けんまこくげきの修羅場を現出する。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
いつも賑やかな浅草は、その日も素晴らしいにぎわいで、奥山のあたりは肩摩轂撃けんまこくげき、歩きにくいほどであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、ここ大宝郷へ、蝟集いしゅうして、肩摩轂撃けんまこくげきの人波をその日には見せた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一刻毎に集り来る人の群、殊に六時の神戸急行は乗客が多く、二等室も時の間に肩摩轂撃けんまこくげきの光景となった。時雄は二階の壺屋つぼやからサンドウィッチを二箱買って芳子に渡した。切符と入場切符も買った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)