老母はは)” の例文
前へ出ようとすると、自失したように棒立ちになっていた又八の手が、握っている刀の柄頭つかがしらで、いきなり老母ははの肩をどんと突いた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀造さんは私の老母ははにいわせると、伊井蓉峰いいようほうの顔を、もっと優しく——優しくの意味は美男を鼻にかけない——柔和にゅうわにしたようなと言っている。
老母ははの眼も、涙でいっぱいに見える。弾正大弼が、身支度しているさまをながめると、よけいに、その感情が取り乱れて来たもののように
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
葡萄や栗をお三寶に盛りあげて待つであらう老母ははのことを思ふと、今朝の空のやうに晴れしぶつてゐたのであつたが、何時留守に歸つて不自由をかけてもすまないと
おとづれ (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
「そこへ、逃げてゆくのは又八ではないかっ。——これっ、老母ははをおいて、どこへ行くぞっ、卑怯者、不孝者、待たんかっ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老母ははにきいても、ぼんやりと、そんなこともあったっけというだけにしか覚えていない。
さすがに子である、逃げたのかと思っていたら、やはり老母ははの身を案じて様子を見ていたのかと、婆はたまらないほど、わが子の気持を欣しく買う。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三人の子供と、二人の老母ははと、十人の召使いとがいて、以前の家に住んでいたのですもの
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
老母ははのすがたを見ると、弾正大弼は、胸のうちが煮え返るようだった。涙がつき上げて来て、正視できなかった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんなばかな話もあるまいが、私の老母はははうろ覚えでこんな事をいっている。
(その悪名隠れもない一人息子の四郎が、頭をまるめ、しおらしい真似事まねごとして、老母はは故郷くにの者をだまそうというつもりであろう。誰が、そのような手にたぶらかされようぞ)
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うしろで、老母ははの声がした。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)