とま)” の例文
では猩猩しょうじょう少時しばらく措き、浪裡白跳張順ろうりはくちょうちょうじゅん黒旋風李逵こくせんぷうりきでもいるかと思えば、眼前の船のとまの中からは、醜悪恐るべき尻が出ている。
長江游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どうした事かと疑いまどっていると、舟びとの一人はやがて髪をふり乱して刀を持って、とまのうしろに出たかと思うと、自分の舌を傷つけてその血を海のなかへしたたらした。
廟の下手は湖水に漁獲すなどりをする小舟の多くが船がかりするところで、うすら寒い秋の夜などになると、とまのなかから貧しい漁師達が寝そびれた紛れの低い船歌を聞くことがよくある。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
黎庶れいしょソノ所ニ安ンゼヨト。諸僚佐次ヲ以テ進ミテ拝ス。廟ノ門ヲ出デ別路ヲ取ツテ南ニ下リ小橋ヲ過ギテ浦口ニいたリ船ヲ買ツテ松島ニ赴ク。微雨たまたマ至ル。とまノ避クベキモノナシ。各傘ヲ張ル。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)