直截ちょくさい)” の例文
彼の宗教心は飽くまで強いのであるが、しかし在来の神学的ドグマは、到底彼の鋭利えいり直截ちょくさいなる研究的良心を充たすに足りなくなったのであった。
最初に視線を交換した船員と売春婦——これほど直截ちょくさいな相互理解はまたとあるまい。港の挨拶はこれだけでたくさんだ。
……久木と加地との議論は、それらに比べるとはるかに直截ちょくさいだった。言葉が飛躍するときでも足はちゃんと地についている。そういう感じがした。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「何故、君はあんなに一時黙っていたんだ」と足立が尋ねたが、そう直截ちょくさいに言ってくれるものはこの友達の外に無い。捨吉はその時の答をもう一度探して見た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
が、そうした順序を踏んで相手が、会わないと云えば、それ切りになってしまう。少しは不自然でも、直截ちょくさいに訪問した方が、かえって容易に会見し得るかも知れない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「そうかも知れません、けれども既に去っていると申しましたのは遠慮で、直截ちょくさいに云いますと過去のものにしなければならぬとさえ感じたのです」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は直截ちょくさいに夫人に結婚を求めた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
にもかかわらず、その夜の志摩は態度から言葉つきまで変っていたし、話しぶりも直截ちょくさいで熱がこもっていた。
そんなときの悪口は、たいていきまったものであるが、かれらのはもっと直截ちょくさいで、はるかに露骨であった。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また感性が単純で直截ちょくさいだから、その表現も単直であり、且つ効果的に磨きが掛っている。
七日七夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
情事のほかにはなにも興味はないようであった、しかも話題は直截ちょくさいであり、明らさまで、隠すところがなかった。彼女たちは男女の性別について、観察的にも解剖的にも豊富な知識をもっていた。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それはいたましいほど直截ちょくさいに、苦痛と恐怖感をあらわしていた。
しじみ河岸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)