猪之いの)” の例文
婦女おんなの身としては他人よその見る眼も羞ずかしけれど、何にもかも貧がさする不如意に是非のなく、いま縫う猪之いのが綿入れも洗いざらした松坂縞まつざかじま
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼はいつものように、新出去定の供をして外診に廻ってい、その時刻には神田佐久間町の、藤吉という大工の家で、猪之いのという男の診察をしていた。
「おやそ、こんな葛籠はなぜ焼いてしまわなかった。お前はなぜ猪之いのをおぶってすぐに来なかった。」
主人あるじが浮かねば女房も、何の罪なきやんちゃざかりの猪之いのまで自然おのずと浮き立たず、さびしき貧家のいとど淋しく、希望のぞみもなければ快楽たのしみも一点あらで日を暮らし
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
登はお雪に二人前の握り飯を頼みながら、男が猪之いのであることに気づいた。