漾々ようよう)” の例文
波は漾々ようようとして遠くけむり、月はおぼろに一湾の真砂まさごを照して、空もみぎは淡白うすじろき中に、立尽せる二人の姿は墨のしたたりたるやうの影を作れり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼はその中へ飛び込んで、恍惚として泳ぎ、漾々ようようとして波のまにまにただよい、そして嵐の中に全く沈んでしまうことができる。
神童 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
渠はひしとわが身をいだきて、松の幹に打ち当てつ。ふとかたわらを見れば、漾々ようようたる霞が池は、霜の置きたるように微黯ほのぐらき月影を宿せり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あたりの風景がぼんやり緑色にけむって、そうしてその薄明の漾々ようようと動いている中を、真紅の旗が燃えている有様を、ああその色を、私はめそめそ泣きながら、死んでも忘れまいと思ったら
トカトントン (新字新仮名) / 太宰治(著)
私はその流れが何処いずこに源を発し、何処に流れ去るのかを知らない。然しその河は漾々ようようとして無辺際から無辺際へと流れて行く。私は又その河の両岸をなす土壌の何物であるかをも知らない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)