漆塗うるしぬ)” の例文
果物はかなり勾配の急な台の上に並べてあって、その台というのも古びた黒い漆塗うるしぬりの板だったように思える。
檸檬 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
三月の雛祭りに漆塗うるしぬりのさかずきで飲まされる白酒のにおいと麦こがし菓子のにおいと混ぜたような、子供をもうと/\させる香気が天地に充ち満ちている、その上
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その向かいの左の戸には「No.12 早月葉子殿」と白墨で書いた漆塗うるしぬりの札が下がっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
木鹿軍の兵は、その顔も皮膚も真っ黒で、まるで漆塗うるしぬりの悪鬼羅刹らせつことならない。しかも大王のうしろには、つながれた猛獣の群れが、尾を振り、雲を望んでえていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紺の股引ももひき腹掛はらがけを着た米友は、例の眼をクリクリさせて、自分のまわりを取捲いている群集を見廻し、高さ一丈二尺ほどある漆塗うるしぬりの梯子を大地へ押し出して、それに片手をかけました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まあどうかわしのいうことを聞くがよい。お前は上等の黒ラシャを着、漆塗うるしぬりの舞踏靴ぶとうぐつをはき、髪の毛を縮らし、いいにおいの油をぬり、下等な女を喜ばせ、きれいになりたがっている。
果物は可成勾配の急な臺の上に竝べてあつて、その臺といふのも古びた黒い漆塗うるしぬりの板だつたやうに思へる。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)