浸蝕しんしょく)” の例文
「脅かしっこなしにしましょうぜ、組長さん。そんなら云うが、この薬の働きはねえ、人間の柔い皮膚を浸蝕しんしょくする力がある」
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たとえば風化せる花崗岩かこうがんばかりの山と、浸蝕しんしょくのまだ若い古生層の山とでは山の形態のちがう上にそれを飾る植物社会に著しい相違が目立つようである。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
街道と波打際なみうちぎわとの距離は、折々遠くなったり近くなったりする。る時は浜辺をひたひたと浸蝕しんしょくする波が、もう少しで松の根方ねかたらしそうに押し寄せて来る。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
じつに円くやわらかに水がこの瀑のところをけずったもんだ。この浸蝕しんしょくの柔らかさ。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
砂浜は大きく彎曲わんきょくして凹んでいる。海が長年かかって、浸蝕しんしょくしたのである。今眺める海は静かだが、石垣島あたりで発生した台風が、枕崎や佐多岬に上陸して荒れ狂い、鹿児島から北上する。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)