沈黙家むつつりや)” の例文
旧字:沈默家
すると、土に塗れた水呑百姓が、大きな黒牛を追ひながら、のつそりと通りかかるのが目についた。正直で、おまけに沈黙家むつつりやの牛だ。
茶話:12 初出未詳 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
沈黙家むつつりやではあつたが、世間並に母親おふくろが一人あつた。この母親おふくろがある時芝居へくと、隣桟敷となりさじきかね知合しりあひなにがしといふ女が来合せてゐた。
長らくセントバアソロミウ医院に勤めてゐたが、物言はずの沈黙家むつつりやと不作法なのとで聞えた男だつた。ある時若い貴婦人がこの医者の診察室に入つて来た。
かういつて、髪の毛が長く額に垂れかゝつたのをうるささうにかき上げながら、顔をもち上げたのは、仲間で一番年若で、おまけに沈黙家むつつりやで評判の高いOといふ画家だつた。
伊勢は寂照寺の画僧月僊げつせんは乞食月僊と言はれて、幾万といふ潤筆料をめ込んだ坊さんだが、その弟子に谷口月窓といふ男がゐて、沈黙家むつつりやで石のやうに手堅いうまれつきであつた。
饒舌家おしやべりの小鳥も、沈黙家むつつりやの獣も、さすらひ人の蝸牛も、地下労働者のもぐらもちも、みんな魔術にでもかかつたやうに、いい気持になつて夢を見てゐるなかに、この桜の花のみは
桜の花 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
沈黙家むつつりやで石のやうに手堅い生れつきであつた。
幽霊の芝居見 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)