楓樹ふうじゅ)” の例文
「秋は鮮紅なお山の風情が得もいわれぬ美観でございますが、冬は、御霊廟みたまやの玉垣が神々しいばかりで、楓樹ふうじゅこずえには一葉もござりませぬ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庭には大盃という楓樹ふうじゅがあって、根元につくばいが据えてあり、いつも綺麗な水があふれるようにしてありました。こけのついた石に紅葉の散っている時などはよい眺めでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
もちろん千年の色を誇っているのである。ほかはことごとく雑木ぞうきでいっせいに黄葉しているが、上のほう高いところに楓樹ふうじゅがあるらしい。ずえの部分だけまっかに赤く見える。
河口湖 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
楓樹ふうじゅの肌が冷えていた。城の本丸の彼がいつも坐るベンチの後ろでであった。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)