昇汞しょうこう)” の例文
「まさにその通り、この赤い酒の中には、かおりも匂いも何んにもない、恐ろしい毒が入っている、たぶん昇汞しょうこうというものだろうと思うが」
それが丁度そのばんの八時半ごろ、るつぼの中にできたすきとほったものは、実は昇汞しょうこうといふいちばんひどい毒薬でした。
よく利く薬とえらい薬 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
それから一時間と経たないうちに、いい加減に薄められた石炭酸だの、昇汞しょうこうだの、石灰水だのがドシドシ運びおろされて、チャンコロ部屋一面にブチかれた。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と云うのは、阿片食も病い膏肓こうこうに入ると、昇汞しょうこうを混ぜなければ、陶酔ができなくなる。だから、そこへ昇汞をどんな多量に用いても、それはいっこう致死量にはならないのだ。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そうして、男爵夫人を乞食に恋のうきみをやつさせて、有名なスカルロンの詩を吟じさせたり、何人なんぴとにも十分の成功を予言したり、霊妙不思議なれ薬、黒鉛こくえんに、安息香に、昇汞しょうこう
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
多量の昇汞しょうこう水を飲んで——
世界の裏 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おびただしい解剖学の書物や、古い会計の帳簿類、又は昇汞しょうこう、石炭酸、クロロホルムなぞいう色々な毒薬が、新薬らしい、読み方も解らない名前を書いた瓶と一所に、天井まで届く数層の棚を
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ねえ友田屋、類似聯想たるや、実に正確な精神化学メンタル・ケミストリーなんだぜ。そして、正午という一語から、昇汞しょうこうという解答を発見すると、僕はその錠剤の不足を、薬屋の販売台帳から見つけ出したのだ。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)