抱擁だきかゝ)” の例文
吉野は、濡れに濡れて呼吸いきも絶えたらしい新坊の體を、無造作に抱擁だきかゝへて川原に引返した。其處へ、騷ぎを聞いて通行の農夫が一人、提灯を下げて降りて來た。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
くはを担いで行くものもあり、俵を背負つて行くものもあり、中には乳呑児ちのみご抱擁だきかゝへ乍ら足早に家路をさして急ぐのもあつた。秋の一日ひとひの烈しい労働はやうやく終を告げたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
よんどころなく丑松は送り届けることにして、ある時は右の腕で敬之進の身体からだを支へるやうにしたり、ある時は肩へ取縋とりすがらせて背負おぶふやうにしたり、ある時は抱擁だきかゝへて一緒に釣合を取り乍ら歩いた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)