憑着ひょうちゃく)” の例文
そのように、滝人には一つの狂的な憑着ひょうちゃくがあって、その一事は、すでに五年越しの疑惑になっていた。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
だいたい、憑着ひょうちゃく性の強い人物というものは、一つの懐疑に捉えられてしまうと、ほとんど無意識に近い放心状態になって、その間に異様な偶発的動作が現われるものだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「いや、あの廻転琴オルゴール時計を見るのさ。実は、妙な憑着ひょうちゃくが一つあってね。それが、僕を狂気きちがいみたいにしているのだよ」とキッパリ云い切って、他の二人を面喰めんくらわせてしまった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
がその時はそう云いながらも、何かそれ以外に、一つの憑着ひょうちゃくが頭の中にあるとみえて、いくつかの鳥や獣の、名前を口にするごとに、首を振っては、何ものかを模索している様子だった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
で、先刻さっきこの本を見たとき、ふと思いあたったことだが、君はシャバネーが運命の先行者ペロール・ゴアー・オヴ・デスティニーと云った、憑着ひょうちゃく心理を知っているかね。かりに、自分の境遇が、小説か戯曲中の人物に似ているとする場合だ。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その妖怪めいた醜さ——とうていそのような頭蓋骨の下には、平静とか調和とか云うものが、存し得よう道理はないのである。たしか、レヴェズの心中には、何か一つの狂的な憑着ひょうちゃくがあるに相違ない。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)