だる)” の例文
水分の多いつめたい風が、遠く山国に来ていることを思わせた。ごとんごとんと云うだるい水車の音が、どこからか、物悲しげに聞えていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お島はベンチに腰かけて、だるい時のたつのを待っていた。庭の運動場のまわりうわった桜の葉が、もう大半きばみ枯れて、秋らしい雲が遠くの空に動いていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
笹村はちょうどまた注射の後の血が溷濁こんだくしたようになって、頭が始終重くだるかった。酒も禁じられていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「お清さんお清さん。」と、廊下で自分を呼んでいる朋輩ほうばいだるい声がした。(お庄はこの家ではお清と呼ばれている。)お庄は聞いて聞えない風をして黙っていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
主婦あるじは上って行くお庄の顔を見ると、言い出した。蒼白あおざめたような頬に、薄いびんの髪がひっついたようになって、主婦あるじは今起きたばかりのだるい体をして、莨をっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その汽車の込むことと、暑いことと言つたら!融は筋肉がぐしや/\に熔けるかとおもふほどだるかつた。額に熱を感じた。歯齦から顎骨へかけて、気味の悪い疼痛が襲つて来た。
歯痛 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
だるい体を木蔭のベンチに腰かけて、袂から甘納豆あまなっとうつまんではそっと食べていると、池の向うの柳の蔭に人影が夢のように動いて、気疎けうとい楽隊やはやしの音、騒々しい銅鑼どらのようなものの響きが
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)