あや)” の例文
別にあやしむ様子もなく、火をつけた線香と、有合う手桶を片手にすたすた井戸の方へ。わたくしは境内を見廻しながらその後について行く。
墓畔の梅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
前に抱へて出てゆく姿は我さへ背後うしろ見らるる心地して、あやにく照れる月影を、隈ある身ぞと除きてゆくあやしの素振り、なかなか人の眼をひきてや、向ふより来し人の
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
何故これが不用に帰したかをあやしむばかりであるが、元来この語の成立ちには一つの約束があり、一方にはまた餅の製し方に、かなり著しい古今の変遷があったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
店に羊頭を掛けてその肉を売らんというものあり、客入りてこれをもとむればこれに狗肉くにくを与う、知らざる者は見て羊肉となし、しかしてあやしまず、世間政論を業とする者これに類すること多し。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
その代はりいつか持て来た応挙、あれは少しあやしいのだが、買ツといてやるサ、自他の為だ尽力すべしかハハハとおだてられて軽井は内かぶとを見透されじとやいよいよ真顔になり。
当世二人娘 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
そうしてモチヒがイヒの一種だという推測もややあやしいのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
儒道仏教の容易に移流したるは何ぞあやしむに足らん。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)