市楽いちらく)” の例文
目立たない洋髪に結び、市楽いちらくの着物を堅気風につけ、小女一人連れて、憂鬱な顔をして店内を歩き廻る。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
市楽いちらくの羽織に、くすんだしまものを着て、帯の紋博多もんはかただけがいちじるしく眼立つ。額の狭い頬骨の高い、鈍栗眼どんぐりまなこである。高柳君は先生に挨拶あいさつを済ました、あとで鈍栗に黙礼をした。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
男も同じく絹はんけちに黒眼鏡、天鵞絨ビロード鳥打帽とりうちぼう、大嶋か何かの筒袖つつそでの羽織、着物は市楽いちらく風通織ふうつうおりにて、帯は幅広し。小指に金の見留印みとめいんの指環、黒八丈の前掛をしめ、雪駄せったちやらちやらと鳴して歩く。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
目立たない洋髪に結び、市楽いちらくの着物を堅気かたぎ風につけ、小女一人連れて、憂鬱な顔をして店内を歩き廻る。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
崖から下りて来て、珍らしく金魚池を見物していた小造りでせた色の黒い真佐子の父の鼎造ていぞうはそう云った。しぶ市楽いちらくの着物の着流しで袂に胃腸の持薬をしじゅう入れているといった五十男だった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)