対蹠的たいせきてき)” の例文
旧字:對蹠的
ことに、芝居道の大策士たる女将軍が後ろに控えていて、そのまた後ろには、それは貧乏神とは全く対蹠的たいせきてきな大財閥が一人控えている。
芭蕉と蕪村とは、この点において対蹠的たいせきてきな関係を示している。もちろん本質的に言うならば、芭蕉のポエジイにもまた、真の永遠的の若さがある。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
むしろ対蹠的たいせきてきと言っていい位なものだ。だが、その対蹠がかえって或る人々には彼等の精神的類似を目立たせるのだ。
聖家族 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あなたと僕と「性」の対蹠的たいせきてきな要素を無視して交響し合うことが出来なかったのは、かえりみて僕にもはっきりと判って来ましたが、僕は負け惜しみではありませんが
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「三毛」はいろいろの点において「玉」とはまさに対蹠的たいせきてきの性質をもった雌猫であった。
備忘録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
じいんと刃鳴りのある凄まじさとちょうど対蹠的たいせきてきなもので、いずれを良しとし、いずれをしとするかは、銘々の好みに任せるとして、ともかくも、世にも得難きものであったことは
将来の有声映画製作者にとってはこの二つの対蹠的たいせきてきな現象の分析的研究が必要となるであろう。この二つのものはしかし必ずしも互いに相容あいいれないものではないように私には思われるのである。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし彼らの立っていた地盤は今の自然科学のそれとはむしろ対蹠的たいせきてきに反対なものであったように見える。形而上学的けいじじょうがくてきの骨格に自然科学の肉を着けたものという批評を免れることはむつかしい。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この上記の点で著しく対蹠的たいせきてきのコントラストを形成するものは、日本の剣劇映画における立ち回りの場面である。超自然的スピードをもって白刃と人形とが場面に入り乱れて旋渦せんかのごとく回転する。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
俳諧の理解ある嘆美者クーシュー(Paul-Louis Couchoud)はアメリカ文化と日本文化の対蹠的たいせきてきなことを指摘し自分らフランス人はむしろ後者を選ぶべきではないかと言っている。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)