娑婆苦しゃばく)” の例文
古人は神の前に懺悔ざんげした。今人は社会の前に懺悔している。すると阿呆や悪党を除けば、何びとも何かに懺悔せずには娑婆苦しゃばくに堪えることは出来ないのかも知れない。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
羅刹らせつ地獄の六道の娑婆苦しゃばくも能く救うというお地蔵さまも、まことは、一仏二体がその本相であり、半面は慈悲をあらわしているが、もう半面の裏のおすがたは、忿怒ふんぬ勇猛な閻魔王えんまおうであって
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ワグネルの残した手紙によれば、娑婆苦しゃばくは何度この聖徒を死の前に駆りやったかわかりません。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
保吉もまた二十年ぜんには娑婆苦しゃばくを知らぬ少女のように、あるいは罪のない問答の前に娑婆苦を忘却した宣教師のように小さい幸福を所有していた。大徳院だいとくいん縁日えんにち葡萄餅ぶどうもちを買ったのもその頃である。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)